その9
私の心の中は希望に溢れていた。ドキドキで窒息してしまいそうだった。
早く門をくぐりたくて息を吸うのも吐くのも忘れて
速足で満開とは言い難いが美しい桜並木を急いだ。
正門前の赤信号に邪魔をされ立ち止まるとサークルの勧誘とそれに笑顔で応える新入生達で
ごった返す、我がキャンパスが見えた。
まさに憧れた光景だった。
信号が青に変わり、私はゆっくりとその憧れの雑踏の一部と化した。
「ねえ!よかったらうちのサークルに!」
そんな心地よい言葉たちに笑顔で応え、キャンパスを突き進んでいく
まるでレッドカーペットでも歩いている気分だった。
その時自分の20メートルほど先に一際大きな群衆を見つけた。
何事かと覗き込んだ私はそこで本物の天使を見た。
その天使は群衆の真ん中でうつむき、真っ白な肌を赤面させて、ひたすら困り果てていた。
その場にいた男達のハートを一瞬で鷲掴みにしておいて自分ではそのことに気づいてすらいない様子だった。
私の思い描く理想の自分はあの子だと思った。私はあの子のように生きたい。
父の機嫌に怯えながら、私は毎日夢想していた。光り輝く美しい女子大生である自分を。
あの子と友達になりたい。あの子と友達になって毎日キラキラして生きていきたい。
「ねえねえ!そんな全員の話し聞いてるといつまで掛るか分からないよ?」
「えっ。う、うん。。」
「いこ!」
私は天使の雪のように美しい手を掴み、小走りで走り出した。
「ちょちょっと!」
「あなた名前は?私は、佐々木真美!」
「戸田。戸田麻衣子。。」
それが私と麻衣子の出会いだった。
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