39.お仕事へ
「キスはダメ。勘違いしないで。」
大家が、不満そうに、本当に口を「へ」の字に曲げました。子供かよ。
「私は、あなたを愛している訳じゃないから。
ただ、週に一回、身体をつかって、気持ち良くしてあげるだけ。
それだけの関係よ。だから、勘違い シ ナ イ デ 。」
この日は、鍵だけを受け取って、契約などは旦那様が帰国してから済ませることにしました。
ずいぶん前から、色々と準備していたらしい大家は不満そうでしたが、
幼稚な考えに付き合うつもりはありません。
軽くシャワーを浴びて、帰り支度が終わった私は、そそくさと大家を残して外に出ました。
空には満天の星が広がっています。
この時、私の胸にも、旦那様への想いだけが星空と同じように広がっていました。
今日のSEXで慈しみ、女の満足を味わっ大家のペニスは、あくまでも、私が寂しい時の慰める道具。
自慰の為の血の通ったバイヴレーターだと思うことにして、家路を急ぎました。
この夜、錠剤のお陰で出血を見ました。心配だった避妊に成功したのが判り、ほっとしました。
翌日、ご主人さまの事務所に顔を出すと、スーツ姿のユウジと、もう一人、
ユウジの彫を深くした顔の、落ち着いた感じの、少し年長の男性がオフィスに居ました。
ユウジの兄弟であることは、ピンと来ました。
「ユウジの兄の孝一だ。この前の先生とは、別の先生のところで秘書をさせている。」
ご主人さまが私に紹介すると、孝一さんは、軽く会釈をしました。
ユウジにはあまり感じませんでしたが、この兄弟は、北○一輝に雰囲気が似ています。
「君が里美さんか。旦那が言うほど地味には見えないな。眼鏡を外すともっといい。」
孝一さんは、私の眼鏡を勝手に外しながら言いました。なんと言うか、勘違い男?でしょうか。
旦那様をご存知な口ぶりですが。
「孝一、初対面で何だ。」(もっと怒って下さいませ、ご主人さま。)
「眼鏡、お返しください。ご主人さま、私、今日は孝一様とご一緒するのでしょうか?」
私は眼鏡が無い薮睨みの眼差しを孝一さんに向けました。
孝一さんは、私に眼鏡を返しながら、私の周囲を廻りから眺めて言います。
「いや、別件で寄っただけですよ。お父さんの新しいオモチャにも興味があったから。」
「わたくしは、ご主人様の・・・奴隷ですが・・・。
それも、旦那様の御言いつけが有るからで、オモチャではありません。」
「と、言うことは、あいつの代わりの手駒ですか。
ユウジによりは格上という扱いをしなくてはならないな。
なあ、ユウジ。」
隅で小さくなっているユウジが更に小さくなります。
孝一さんに怯えている感じがします。
「里美さん、僕は多少、里美さんに興味が湧いたよ。今度、お父さん抜きで会いたいな。」
「ご主人さまのお許しがあれば、いつでもどうぞ。」(ご主人さまは許しませんけどね。)
「だ、そうですよ、お父さん。」
「もう行け!これを大先生に。よろしくな。」
ご主人さまが、重そうな紙包みを手渡すと、孝一さんを急き立てました。
「はい、お父さん。では、里美さん、また今度、食事でも。」(その名刺、いりませんから。)
孝一さんが出て行くと、ご主人さまは、私にブリーフケースを渡しながら、ユウジを手招きしました。
「里美、今日はこれからユウジと、大事なお客様を泊り掛けで観光に連れていってもらう。
私は一緒に行けないが、万事、先方のお望みの通りにするんだ。いいな。」
「心得ております、ご主人さま。ご不快なことの無い様に、万端心得ております。」
ご主人さまの前では、気構えるつもりも無いのに、服従する言葉使いがスラスラと出てしまいます。
旦那様に教えられた通りに話せたのが、少し満足でした。
ご主人さまが出かけると、私もユウジの運転する別の大型車で、お客様を迎えに空港に急ぎました。
高速に乗ったところで、そっとブリーフケースを開けて中を確かめました。
ブリーフケースの中身は、日付と名前が違うだけで、先日署名した誓約書と、
全く同じ内容のモノでした。
私は、昨夜からの不正出血の為か、少し気が遠くなりました。
それでも、バックミラー越しに、ユウジが見ていたのを見逃しませんでした。
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