25.宣告された、ご主人さまと奴隷の関係。
里美は、老人との何度かのメールのやり取りの印象で、全く一方的にですが、
学生時代に指導を受けた老教授と同じような、インテリジェンスを感じていました
昼日中、こんなにも整然としたオフィスで、外見はイメージのままに紳士然とした老人の口から、
改めて非現実的な命令を言われた衝撃に、暫くの間、身の震えが止まらなかった里美でした。
先日の、埃が舞い踊る、薄暗い作業場や、黴臭い畳の座敷で、汚辱に塗れながら、
男たちの野蛮な欲望のままに犯されながら、暴力で強制され、誓わされた従属とは、
全く次元の異なる、絶対的な服従だと思いました。
今、この時を境に、目の前の人を自分の支配者として扱わなくてはならない、
本質的な部分から奴隷に堕ちた自分。
里美は、自分のアイデンティティーが崩壊して行く音を、耳の奥底、頭の芯で聞いていました。
「返事は、どうした。」ご主人さまは、優しいけれど、確りとした口調で、私に命じました。
「かしこまりました、ご主人さま。」
「では、奴隷として尽くすと誓え。」
「はい、ご主人さま。今から私は、身も心も、あなたの奴隷です。」
にこりと微笑みながら言いながらも、自分で口元が歪んでいるのがわかりました。
その後、デスクと端末を与えられ、様々な仕事の手順を教えられたのですが、
この日は結局、何も頭に入らないまま夕方を迎えてしまいました。
窓の外、都心の空には夕焼けが広がっています。
ご主人さまは、私を促すように地下駐車場に連れて行くと、そこには黒塗りのハイヤーが待っていました。
当たり前の様に、ご主人様が告げた行き先に、運転手はゆっくりと高級国産車を走らせました。
辺りはすっかい夜になり、1時間程で車が着いた先は、高級住宅地の一角にある、大きな邸宅の前でした。
車を降り、ご主人さまに付き従い、門をくぐると、そこが手入れの行き届いた庭のある、料亭である事が判りました。
ご主人さまとは別々にされ、優しい明かりの灯る廊下を通された先に着いたのは、襖から薄明かりの洩れ込む小部屋でした。
傍らには、紫の袱紗が掛けられた何かが、四角い漆塗りの盆に載せられて置かれています。
複数の男性が談笑する声が、襖の奥から聞こえていました。
やがて、向うからご主人さまの声が掛りました。
「里美、それを持っておいで。」
私が襖を引くと、眩い明かりが目に飛び込んできました。
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