その11
父は私のお尻を叩き疲れると汗をぬぐい、荒くなった息を整えながら、玄関で真っ赤に腫れ上がったお尻を晒したまま涙を流し続ける私を見下ろしていた。
「愛理。起きろ。今すぐ立て。」
国雄の声はまるで遠くにいるように小さく聞こえる。
立たなければいけないが、お尻の痛みですぐには反応できない。
のろのろと立ち上がる私に業を煮やした国雄は私の髪の毛を引っ張り、無理矢理立たせた。
スカートはずり上がり、赤いティーバックの下着はひざ下まで下げられ、顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
「愛理。面白いものを見せてやる。車に乗れ。」
今日という日がまだ終わらない事に絶望しながらも
私は言われるがまま助手席に乗り込んだ。
車は都会を離れ、どんどんと山道を進んで行く。
着いた先は熱海の旅館だった。
時刻は夜中の1時を回っていた。
「物音を立てるな。」国雄はそう言うと慣れた足取りで庭先の方に進んで行く。
一階の一室のカーテンの隙間から漏れた光が庭園の池をほのかに照らしていた。
その部屋を確認した国雄は小さなハンディーカメラを構えながら
光の漏れる先を目指し、ゆっくりと歩を進めて行く。
嫌な胸騒ぎがした。だが、まるで光に吸い込まれるように私も国雄の後を
まるで泥棒のような忍び足でついていった。
国雄は窓ガラス越しに室内を覗くとニヤリと笑いカメラを構えた。
私もカーテンの隙間から室内を覗いた。
そして私は全てを理解した。
帰りの車中、しばらくの間国雄と私は無言のままだった。
とんでもないものを見たというのに、私達は何も声を発さず、そのまま車に乗り込み
来た道を戻った。
どれくらいの間、あそこにいたのだろうか。ベンツの時計はAM2時半を過ぎた頃だった。
不意にハンドルを握る国雄が声を発した。
「分かったか?あいつらはそういう関係なんだ。」
「お父さんは知っていたの?」
「ああ。何年も前からな。」
「何で、何で、あんな事を許しておくの?」
私の声は震えているわりには大きな声だった。怒りがそうさせていた。
「許しているわけじゃない。許すものか。復讐のためだ。これからさ。」
国雄は眉間に皺を寄せた。その横顔は怒っているようでもあり、笑っているようでもあり
国雄の心の底が読めず、恐ろしい気持ちになった。
あの二人はきっと殺される。。
そんな事を考えていると背筋が凍りつくようだった。
だが、その反面あの二人が罰を受ける姿を早く見てみたい気もした。
自業自得だ。
あの二人がなぜいつも私を助けてくれなかったのか。
なぜいつも必要以上に国雄に怯えていたのか。
なぜあの二人が会話をしたりしているトコロをほとんど見た記憶がないのか。
全ての理由がそこにあった。
私はずっと独りだったのだ。独りぼっちだったのだ。
自分達の不貞の露呈を恐れ、私をいつも生贄にしてきたのだ。
許せない。あいつらだけは許せない。
必ず地獄に落としてやる。国雄という名の毒を呑み込んでも、必ず地獄を見せてやる。
自宅に着いた時には朝焼けが雲を真っ赤に染めていた。
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