翌日、優理子は坂本の問題を話し合いたかったのだが、当の小谷先生は急な休みを取っていた。
それなら先に学年主任の室井先生に相談すべきかとも思ったが、優理子は思い直す。
小谷先生が不在の時に、担任でもなく赴任したばかりの自分が問題を荒立てるのは心情的に
憚られたのだ。
それに…昨日の深沢恵理子の態度も心に引っ掛かる。
屈辱的な行為を強要されているところに突然教師に踏み込まれて動揺していたのだろうが、
相撲部の稽古場から連れ出した後の恵理子の怯えようは異常だった。
哀れなほど肩を震わせ、悲痛な嗚咽を洩らしていたかと思うと
「私は好きで坂本さんたちのグループに入っているんです! もう余計なお節介はしないで!」
と優理子に食って掛かった。
「先生にはあなたが喜んで坂本君たちと一緒にいたようには思えなかったの。
何か事情があるのなら何でも言って…彼らも懲りたでしょう。
今後はあなたに指一本触れさせはしないから。」
恵理子を力づけるつもりで言った優理子だったが、かえって恵理子は思いつめた表情を浮かべ、
「八木先生は来たばかりであの人たちの本当の恐ろしさを知らないのよ!」
と言い捨て、優理子の元から駆け去ったのだった。
イジメに遭っている生徒がそれを認めがらないのは分かっていたが、恵理子の場合、さらに深い
事情があるように思えた。
(深沢さんにもう少し話を聞いてからでも遅くないか。)
優理子は空席の小谷先生の机に目を向け、溜息を吐きながら、小谷先生が出勤して来るまでは
この問題を公にするのを止めることにした。
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