「もう夏休み前のこの時期に新しい先生が来るそうだぜ。」
「D組担任の小林の病気が長引いて退職することになったんで、
急遽探して来たらしいよ。」
「女の先生だってな…どうせ年増のババアだろうな。」
「剣道やってるって言うから、そこそこ若いかもよ。」
「だったら志賀みたいな筋肉バカのドブスだぜ。」
その朝、臨時で集められた全校集会を前に生徒たちが噂していたが、
紹介のためその新任教師が壇上に上るとふざけ合った笑いは一瞬で静まり、
生徒たちの目は彼女に釘付けになった。
「すごい美人…」
「筋肉バカどころかスタイルもいいじゃん。」
…であるからして、お辞めになった小林先生の代理でわが校に赴任された
八木優理子先生には2年生の担任として、日本史を受け持っていただきます。
校長が紹介を終えると彼女の挨拶である。
短く簡単なものだったが、女らしさを充分に湛えその立ち居振る舞いは上品で
爽やかだった。
暑苦しい体育館に吹く涼風を思わせる。
「くそ…2年生は恵まれてるぜ…小谷先生に続いてこんな美人の授業を
受けられるんだからな…」
3年生からやっかみの声が聞こえる。
「へへへ、でも最近の小谷先生はかなりエロが入ってるから、八木先生こそ
新しい光教学院のマドンナだよな。」
生徒たちは、演壇の下に並んだ教師たちの中で太ももまで剥き出しの小谷奈緒
先生と壇上で凛とした佇まいで立つ八木優理子先生を見比べている。
*****
「ヒヒヒ…小谷先生には強力なライバル出現だな…」
八木先生の新任の挨拶を聞きながら、奈緒と並んで立った武山がそう呟きながら
奈緒のお尻を撫でている。
「うぅ…今は全校集会なんです…どうかお許しください…」
そう哀願しながらも奈緒は抗いもせず触られるままである。
「それにしてもムカつくぜ…八木優理子…」
実を言うと八木先生の剣の腕前を最初に見舞われたのは、剣道部員などでは無く
他ならぬ武山先生その人だった。
昨日、生物の授業で小谷奈緒の内臓まで実験材料にした後、校長室で八木先生に
紹介されたのだ。
今日の着任に先駆けて準備のために学校を訪れていたらしい。
(人妻だと…? 年は30くらいか…ヒヒ…旦那とはヤリまくっていそうだな。
それにしてもこの楚々とした色気はたまらないぜ。)
武山の悪い虫はすぐに疼き始めた。
同学年の担任として色々教えてあげてくださいと言う校長の言葉をいいことに、
八木先生を生徒指導室に連れ込んだ。
2年生の学年計画や指導方針を説明するのにかこつけて、早速彼女の身体を
触り始めたのだ。
学校の様子も分からない今なら騒ぎ立てもしないだろうとの狡猾な考えもあった。
武山自身、奈緒を解剖したばかりで劣情に満ちていた。
(奈緒に劣らずいい女だぜ…)
武山は不必要に八木先生に体を寄せ、その手はさり気無く腰の辺りを撫で回す。
(フフ…この腰の曲線は何だ…ムッチリ成熟したいいケツだ…)
一瞬の出来事だった。
武山は手首に強い痛みを感じたかと思うと床に転がっていた。
状況も飲み込めないまま、清掃の際にしまい忘れていたのだろう箒の柄の部分が
頭を直撃したのが見えた。
「痛ぇ…!」
八木先生はお尻を触る手を捩り上げ、そのまま押し倒して箒で武山の面を
したたか打ちすえたのだった。
「武山先生、セクハラなど教師にあるまじき行為は私は決して許しません。
申し上げておきますが、私は剣道の腕前にはいささか自信がありますので、
次にこのようなことがあれぱ、手加減致しませんのでそのつもりで。」
*****
2年D組の教室は和気あいあいと新任の担任を迎えた。
理知的な物腰の中にも生徒への思いやりが垣間見え、一見杓子定規とも思える
物言いにユーモアが織り交ぜられる。
何より整った顔立ちは教師の矜持を保ちながら、温かみに満ちた美形だった。
男子生徒は異性への憧れに溢れ、女子生徒は同性への羨望に満ちる。
彼女が既婚だと聞いて落胆の声が無いでは無かったが、典雅で美しい女教師を
迎える喜びに教室中湧き立っている。
「あ~あ、折角きれいな先生が来たのに、もうすぐ夏休みだよ。
その間、八木先生に会えないのは寂しいよ…」
誰かが言った言葉がある意味生徒の本音だった。
*****
「小谷先生…」
最初のHRを終え、職員室に戻る廊下でB組担任の小谷先生と一緒になった。
去年新卒で採用になったばかりだが、教師としての資質も能力もかなりのもの
だと校長先生から聞いている。
えっ?…優理子は小谷先生のスカートの短さに違和感を持った。
これでは下着が見えてしまいそうだ。
彼女のクラスには坂本という不良のボスとその取り巻きが在籍している。
もしかして彼らを手なずけるためにこんな扇情的な服を着ているのかしら。
優理子には女であることを武器に生徒に接することは考えられない。
しかし、聡明な優理子は彼女と少し話しただけで、この扇情的な服装の若い
女教師が見かけとは裏腹に崇高な教育理念の持ち主であることを見抜いた。
清楚で可憐な美貌に高い教養と倫理感が覗く。
生徒に信頼され、敬われている理由も納得が行く。
(きっと彼女には彼女なりの考えがあるんだわ。)
優理子は小谷先生が好きになった。
彼女も年長の自分に好感を持ったようで、彼女が妹のように思えた。
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