その50
タクシーを降りると恵美は無表情で足早にアパートに向かって歩いた。
恵美は私がアパートの場所を知っている事を知らない。
横に並んで歩いて、うっかり先導してしまう事を恐れて、私はあえて恵美の斜め後ろを歩いた。
恵美はきっと怒っているのだろう。きっと悲しんでいるのだろう。
油断すると溢れてしまいそうなそれらの感情を無表情の中に押し殺して歩いている。
降り際に運転手が私に向けて放った言葉を恵美は聞こえないふりをしていたが、はっきり聞こえていたはずだ。
「お兄さん。今度はお金払いますから、またお願いしますよ。」
運転手はそう言うと、私に自分の電話番号を書いたメモと、先ほど私が渡した一万円札を握らせた。
恵美を知った男は必ずもう一度と願う。当然の事だった。だが、タクシーの運転手に次のチャンスなど永遠に来ない。
恵美を所有できるのはこの世で私だけだ。
アパートのエントランスをくぐり、二人でエレベーターに乗り込む。
この前は階段を使って上がった。このエレベーターを使うのは初めてだったが、小さくてずいぶん古い。
前回ここに来た時は野川を尾行して、脅迫し、恵美を二人でレイプした。そんな状況の中気が付かなかったが、室内はリフォームされ、キレイになっていたが、このアパートはずいぶんと築年数が古そうだ。
恵美が自室の鍵を開けて、室内に入ると私も続けて中に入り、後ろ手で鍵をかけた。
恵美は相変わらず、無言で無表情だった。肩にかけていた小さなショルダーバックをストンと床に落とすとそのまま、膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
まるで、私などいないかのように、一人で帰って来たような恵美の振る舞いに私は少し戸惑った。
もちろん、お茶でも入れますね。などと言う言葉を期待しているわけではないが、これでは取りつく島もない。
「恵美。今日はもう疲れたか?それなら俺はここで失礼するよ。」
私は靴も脱がないまま、玄関から恵美に問いかけた。
すると恵美は、無言のまま立ち上がると私の方にゆっくりと近づいてきた。
キスをされるのかな?と思ったその時、左の頬に衝撃が走った。殴られたのだと気づくには少しのタイムラグがあった。
恵美に平手打ちをされたのだと思い至った頃、今度は逆側の頬に同じような痛みが走った。
三発目の平手打ちを私の左頬にお見舞いしようと振り上げた恵美の右腕をとっさに私は掴んだ。
恵美の顔を見ると恵美は声も出さずに大粒の涙を止めどなく流していた。
私は掴んだ手を放した。
「いいぞ。もっと殴れよ。俺の事が憎いんだろ?気が済むまで殴れ。抵抗なんてしないよ。恵美の気が済むまで殴ったら、そのまま帰るから。」
私はそう言うと目をつむった。
左の胸に衝撃が走る。続けて右の胸、左の胸に衝撃を受ける。私は目をつむったまま、それらを受け止めた。
すると、恵美の嗚咽が聞こえてきた。絶叫に近いほどの狂おしい悲鳴だった。
私の胸ぐらを掴み、顔を埋めて、親に怒られた子供のように泣いていた。
私は恵美の溢れた感情を受け止めているという喜びと、それに対して自分の感情を晒すことが出来ない己の立場に打ちひしがれた。
このままベッドに恵美を連れていき、恋人のように抱き合う事ができたらどんなにいいだろうか。
そう思うがそれは出来なかった。恵美と一度でも恋人同士のように抱き合ってしまえば、私はもう今の自分のままではいられないという確信があった。
私の今の生活は崩壊するだろう。
仮面を被り、ウソで塗り固めた、居心地の良い牢獄のような生活。そこに住む、妻、仕事、友人、社会的地位。私はそれらが手放せない。
冷静になれ。コイツはオモチャだ。オモチャに感情移入するなんて馬鹿げている。
子供の頃は使い飽きた人形やプラモデルの腕や足を引きちぎり遊び、捨てた。
それはご主人様に飽きられてしまったオモチャの最後の役割だった。
目の前にいるのは俺のオモチャだ。オモチャに理性を奪われるような愚かな奴らと俺は違う。
私は無言のまま恵美をベッドに突き飛ばすと馬乗りになり、恵美のブラウスを引きちぎった。弾かれたブラウスのボタンが床で音を立てて回っている。
驚いた顔で私を見る恵美の顔を私は平手で思いきり叩いた。女に暴力をふるうなんて初めての事だった。
涙に濡れ、頬を叩かれてもなお、恵美の美しさは輝きを失う事がない。
ブラジャーも引きちぎり、下着も乱暴に脱がせ、そのまま正常位で挿入した。
恵美を深く強く突き刺しながら、恵美の頬を掴み、キスをした、舌を挿し入れると恵美は嫌がるどころか必死にそれに自分の舌を絡ませてくる。
「恵美、怖いか?やめてほしいか?」
私は恵美の口から、やだ、やめて、という言葉が出る事を願ったが、恵美の口から出た言葉
は今、私が一番聞きたくない言葉だった。
「安藤さん。好き。大好き。大好きなの。いいの。安藤さんの好きにしていいよ。めちゃくちゃにして。私を変えて。私を安藤さんのオンナにして。」
恵美はそう言うと私の背中に爪を立てしがみついた。
恵美は変わる事を望んでいる。私は変わる事を恐れている。
そこには大きな矛盾があった。ダメだ。恵美といれば私はいつか崩壊する。理性と冷静さを失った行動には必ず、致命的なほころびが生じる。
そうなれば後は崩壊を待つだけだ。
「安藤さん。。。泣いてるの??」
恵美にそう言われ、初めて自分の涙が恵美の胸元に落ちている事に気づいた。
「大丈夫だよ。私なら大丈夫だから。」
そう呟く恵美を私は一心不乱に突き上げた。
恵美はとても穏やかな表情で私の目の奥を見つめながら言った。
「安藤さん。好きよ。大好き。」
「恵美。俺もだよ。」
私は生まれて初めて女の中に射精をした。
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