その39
私は隣りのオンナがトイレに立つのを木戸越しに確認すると自分もそのタイミングに合わせて部屋を出た。
個室のドアを開けて廊下に出ると、予定通り隣りのオンナと目が合う。
私は偶然を装いオンナに声をかけた。
「あっ。先ほどはどうも。木戸越しに失礼しました。」
努めて笑顔に紳士に振る舞う。この手のオンナに第一印象で下品な男と位置付けられてしまっては、もう挽回は効かない。
相手にされず終わるのがオチだ。
恵美に必ずオンナを連れてくると断言してしまっている。失敗は出来ない。
「あっ。どうも。おトイレですか?」
オンナは笑顔で答えた。酔いの加減も丁度いい。
「ええ。あなたも?」
「私もです。ちょっと酔っぱらっちゃったみたい。」
私とオンナはトイレに向かい並んで歩いた。トイレまでの短い廊下で何か糸口を掴まなければいけない。
私の嗅覚がこのオンナは今、男に飢えていると嗅ぎ取った。だが、それでも誘い方を間違えれば、失敗はありえる。
つまりはオンナに都合の良い言い訳をこちらから用意出来るかどうかだ。
明日の朝このオンナが自分の部屋で目を覚ました時、見ず知らずの男とその場の勢いで一夜を共にしてしまった昨日の出来事を正当化できる
ような言い訳を用意してやる。
オンナなんて薄皮一枚破けばみんな同じだが、その薄皮を男が破けないから、オンナも自分を晒す事が出来ない。
この手のオンナは薄皮もその辺の女達よりも厚めにこしらえているから手が焼ける。
「そちらは女性お二人ですか?」
「ええ。会社の同僚なんです。」
「なるほど、お仕事の帰りですか。」
「そうなの。ちょっと、真っ直ぐ家に帰る気分でもなくて。そちらは女性とお二人?デートですか?」
「デート?勘弁して下さい。相手は私の妹ですよ。」
私はそう言うと大げさに声を出して笑った。
しかし、うまく話しが動き始めたところでトイレに到着してしまった。
私は男子トイレにオンナは女子トイレに入った。
私はオンナがトイレから出てくる前に先に廊下に出ると、トイレの入り口の前に自分のコンタクトレンズを転がした。
「あら?どうかされました?」
床を睨みつけて右往左往する私にトイレから出てきたオンナが声をかける。
「いや~。参りました。コンタクトを落としてしまったみたいです。」
「えっ。大変。どの辺に落とされたんですか?」
「ここらへんだと思うんですけど、なんせ、片方見えないもので、なかなか。。
私がそういうとオンナは廊下に膝をつき、手をつき、コンタクトを探し始めた。
「あっ。いやいや!そんな結構ですよ!膝も手も汚れてしまいますし。」
「ううん。大丈夫。私もコンタクトなんです。無くすと大変だもの。」
「すみません。。」
私はオンナに謝罪の言葉を述べて再び床を睨みつけ、コンタクトを探すフリをした。
オンナがコンタクトを見つけるまでこの芝居を続けなければいけない。
「あった!ありましたよ!」
オンナの歓喜の声があがる。酔っているせいだろうか。大きな声だ。
「ホントだ!ありがとうございます。」
オンナは私にそっとコンタクトを渡すと少し自慢げに微笑んだ。
それじゃあ。と、オンナにこの場を去られてしまっては、姑息な演技をした意味がない。
「ありがとうございました。あの。。」
私はあえて口ごもった。
「はい?何ですか?」
「いや。実は私この後、妹を駅まで送ったら、1人で行きつけのBARで飲みなおそうと思っていたんですけど。。」
「けど?何?笑」
私がこの後何を言うか分かったうえでオンナはからかうように聞いてくる。この手のオンナはやはり自尊心をくすぐるのが一番だ。
「もし宜しければお礼をさせて頂けませんか?」
私のその言葉にオンナは待ってましたと言わんばかりに、ニコっと笑った。この時点で私は、この笑顔がオンナの答えである事を確信した。
「いえ。そんなとんでもないです。コンタクト拾っただけですから。お気遣いなさらないでください。お気持ちだけで結構ですから。」
オンナはさらに断るふりを続けるが、これはウソであり、パフォーマンスだ。つまりは、まだ今オッケーしてしまったら軽いオンナだと思われる
もっと誘え。と言っているにすぎない。ひるむ必要はどこにもない。
オンナの自尊心をもう少しくすぐってやるだけだ。
「じゃあ、お礼じゃなければ良いですか?」
「えっ?」
「本当は木戸越しに目が合った時から素敵な女性だなと思っていたんです。
すみません。お礼になんていうのは私の卑怯な口実です。あなたともう少しお話しがしてみたい。
実は今もコンタクトを探して下さってるあなたの姿に見とれていました。」
オンナはまたニコっと笑った。
「ずいぶん正直なんですね。笑」
「この後少しだけ私にお時間を頂けませんか?」
「う~ん。どうしようかしら。。同僚も待ってるし。。」
このオンナはプライドが高いうえにかなりSっ気もあるようだ。
必死に自分を口説く男をいじめて悦に入っている。
多少のイラつきをおぼえたが、こんなものはもうプレイが始まっていると解釈すれば良い。
こういう生意気なくそオンナは服もろくに脱がさないまま半裸の状態で前戯もほどほどに起ちバックで突っ込んでやる。その生意気な
S気質もお高いプライドもズタズタにしてやる。その時を思い、今はこのオンナの手の平の上であえて転がされてやろう。
「ダメですか?私はもっとあなたの事が知りたい。こんな気持ちのまま一人でBARに行くのはあまり悲しい。」
「私、明日仕事が早いの。30分もいられないかもしれないわよ?」
「構いません。30分一緒にいてつまらないと思ったらいつでも帰って頂いて結構です。
それにあなたにはこんな安居酒屋は似合わない。あなたにピッタリな素敵なBARにお連れしますよ。」
「分かりました。じゃあ、30分だけお付き合いしますね。」
演技とはいえ、自分のこの必死さと、このオンナの無駄に分厚いプライドという名の薄皮に笑いそうになるが、こらえなければいけない。
「ありがとうございます。」
「お名前を伺っても?」
「安藤。安藤龍平と申します。あなたは?」
「沙織。戸田沙織です。」
私には戸田沙織はこの時すでに、出来るオンナの皮を破り、本来の肉食獣の姿をさらしているように見えた。
獣相手に言葉はこれ以上必要ない。沙織が今欲しいのは酒と快楽だけだ。
相手が欲しがってるものを存分に与えてやればいい。
そしてこのオンナが恵美に教えてくれるだろう。オンナとはどういう生き物なのか。
恵美の見てる前でこの小生意気なオンナを徹底的に服従させてやる。
恵美が自分もそうされたいと望む姿を見せてやる。
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