その36
「早かったね。」
「安藤さんこそ。まだ、待ち合わせの時間の15分前ですよ。」
私はビール、恵美はシャンディーガフを注文し、乾杯した。
「恵美ちゃんってお酒弱いんだっけ?シャンディーガフなんて飲んじゃって。」
「弱いってわけじゃないんですけど。。。」
「けど?」
「その。。。あたし。。酔うとダメな子になっちゃうので。。」
「なるほどね。俺の事を警戒してるってわけだな。」
私は努めて明るく冗談めかして言った。
「違います!そうじゃないんですけど。。今日は安藤さんとちゃんとお話しがしてみたくて。。」
恵美はそう言うと耳まで赤くなるほど赤面していた。
「そうだね。そういえば、電話で俺に相談したい事があるって言ってたね。」
「あっ。はい。あっ。でもそれはもう少し後で。ちょっと緊張しちゃってるので、何か普通の会話しましょ。落ち着いてきたらお話しします。」
私が恵美を見つめると恵美は目を逸らし、うつむきながら、また赤面していた。
「普通の話しか。。そうだね。よく考えたら恵美ちゃんとはこの前もほとんど話さなかったもんな。」
「そうですよ。安藤さんは、麻美とばかりお話ししてましたよね?」
恵美の作るふくれっ面が実にかわいい。
「普通の話題か。そうだな。。大学は楽しい?」
私がそう質問すると恵美は緊張で強張った顔をクシャっと崩し「ぷっ!」と笑った。
「なんだよ?何か変な事言った?」
「だって、何かお父さんみたいな事聞くから笑」
「そうか。そうだね。難しいな~。」
私は腕を組み大げさに困った振りをしてみる。恵美はそんな私を見て、また笑っていた。笑うと恵美は少女のように幼い顔になる。
「もういいです。笑 私が安藤さんに質問しますから。」
恵美はすっかり緊張もほどけたようで笑顔になっていた。
「どうぞ。何でも聞いてくれ。結婚してるか、してないか以外の質問なら何でも答えてあげるよ。」
私がそう言うと恵美はまたふくれっ面で睨んでくる。恵美をからかうのは実に楽しい。
「そんな質問しません。私その質問の答え知ってますから。」
恵美はそう言うとまた、うつむき私から目を逸らした。
「そうか。知ってたか。それじゃあ、独身のフリして口説く作戦は今日は使えないわけだな。残念だ。」
恵美は私の言葉を無視して、メニューを目で追っていた。恵美のシャンディーガフは空になっていた。
「シャンディーガフおかわりする?」
「いえ。ちょっと、酔いたくなってきました。」
恵美は本気で不機嫌になってきたかもしれない。あまりにカワイイので少しからかい過ぎてしまったかもしれない。
「私ビールにしますけど、安藤さんは?」
「俺はじゃあ、シャンディーガフにしようかな。」
「シャンディーガフですか?」
「いや。冗談。俺はハイボールにするよ。」
「安藤さん、絶対私の事からかってますよね?」
「ごめん。ごめん。とりあえず飲もう。」
私達はその後1時間以上当たり障りのない世間話しを繰り広げた。
「安藤さん。私の事からかってますよね?」
「からかってないって。恵美ちゃん大丈夫?だいぶ酔ってきちゃったんじゃない?」
恵美はその後ビールを2杯、ハイボールやレモンサワーなどを次々に空けていた。
「酔ってないです。ねえ安藤さん。何で私をからかうんですか?私をからかって面白いんですか?」
「ああ。面白いね。」
「ふざけないで本気で答えて下さい。」
恵美はだいぶ酔っている。私を睨む目が潤んでいるのも酒のせいだろうか。
「私男の人にこんな扱いされたの初めてです。」
恵美は怒っているようだ。
「そうだろうな。」
私はわざとそっけなく返してやる。
「そうですよ。私にあんな事して。学校の男子が知ったら安藤さんなんてころされちゃうんだから。」
「そりゃ、怖いな。まだ、死にたくない。」
「また、ばかにして!」
「ねえ。安藤さん。何でこの前、トイレで私にあんなことしたの?ねえ。ちゃんと答えて。」
私もだいぶ酔いが回ってきたが、思考回路は良好だ。そろそろ私もスイッチを入れなければいけない。
「恵美の方こそどうなんだ?なぜ今日まで俺に連絡をよこさなかった?なぜ、会いたいと素直に言わなかった?」
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