その27
私は電話を切った後、恵美の住む笹塚に向かった。
偶然の再会を装うつもりだった。
麻美の情報によると、恵美は代官山を出た後、しばらく顔を出していなかったからと、大学に立ち寄ってから帰宅すると言っていたらしい。
どれくらいの時間大学に滞在するか読めなかったが、後2~3時間は帰って来ないのではないだろうか。
私は長期戦を覚悟して、改札口が見渡せる喫茶店に陣取り、辛抱強く恵美を待ち構える事にした。
コーヒーを注文し、タバコに火をつけた時だった。
改札口に目をやると、そこに野川の姿があった。
初めては錯覚か、人違いかと思ったが、紛れもなく野川本人だった。
野川は改札口を出ると一度立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回した。そしてスマートフォンを片手にゆっくりと歩き始めた。どうやら、スマホで地図を見ているようだ。
私は慌て会計を済ませ、野川の後を追った。
私は野川を尾行しながら、混乱した頭を整理する事になった。
なぜ、野川がここにいる?やはり、恵美が麻美に語った内容は本当で、野川と恵美はデキているのか?
いや。それにしては様子がおかしい。
どこか、コソコソしているし、もし、二人が本当にデキているなら、今恵美は外出中なのも当然知っているはずだ。
まさか、合い鍵をもらうまでの仲になっているとでも言うのか?ありえない。
つまり、コイツは恵美と会う約束などしていないという事だ。
頭に色々な仮説やクエスチョンが浮かんでは消えた。
慌てる事はない。もうすぐ答えは出る。
野川が教えてくれるはずだ。
着いた先はやはり恵美の住むマンションだった。
住所も麻美から聞いたものと一致している。間違いない。
野川がマンションのエントランスをくぐり、エレベーターに乗り込むのを確認すると、私はエレベーターの止まる階を確認した。
やはり、恵美の部屋がある3階だった。
私は階段で3階に上がると階段から、野川をこっそり観察した。
野川は恵美の住む305号室の前に立つとチャイムを鳴らした。当然誰も出ない。恵美はまだ、大学にいるはずだ。
野川は次に辺りをキョロキョロと見回すとその場にしゃがみこみ、ドアノブの辺りをイジリ始めた。
それがピッキングだと気付いた時、私の中で確信に近い仮説が生まれた。
恵美はあの日以来野川にストーキングされているのではないか?恵美が怯える電話の主も野川だ。
だから、大学にもましてや、スクールにも顔を出す事が出来ない。そう考えれば全ての辻褄が合う。
私の中に抑えようのない怒りがこみ上げて来ていた。
野川の野郎。ふざけやがって。
野川はピッキングを成功させると、もう一度辺りを見回し、人の目がない事を確認し、素早くドアを開けて、室内に滑り込もうとしていた。
私はドアが閉まる寸前、手を挿し入れて、それを阻止した。
呆気に取られている野川を室内に蹴り込み、ドアを閉めた。
「久しぶりだな野川。こんな所で何してる?」
「安藤?どうしてお前がここに。。」
私は、尻もちをついた状態で私を見上げながら、思考回路が停止しているような顔を向けて来る野川に激しい苛立ちを覚えた。
「野川。さっさと俺の質問に答えろ。なぜ、お前が相川恵美が1人暮らしをしているこの部屋にピッキングをして侵入しようとしている?」
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