その24
「もしもし?」
「もしもし?もしもし?やっと出た。。恵美どうしたの?全然大学にもスクールにも来ないし電話も何回かけても出ないし、かけなおしてきてもくれないなんて。。」
「ごめん。。ちょっと体調が悪くて。。」
「恵美。ウソ言わないの。何かあったんでしょ?あたしには分かるよ?恵美がウソついてる事くらい。恵美、もし恵美がホントに体調が悪いなら来なくて良い。
でももし、体調が悪いっていうのがウソなら、今からいつものスタバに来て。あたし待ってるから。」
麻美はそう言うと電話を切った。
重い身体を起こし、ベッドの上の時計に目をやる。もう午後の1時をまわる頃だった。私はもう考えるのもめんどうで、麻美の言う通りにする事にした。
シャワーを浴び、着替える。オシャレをする気分でもないが、麻美が代官山のスタバに来てと言っていた事を思い出し、それらしい服装に着替え家を出た。
電車に乗るのも億劫で、学生の分際でありながらタクシーを使う事にした。
「代官山までお願いします。」
運転手にそう告げると、そっと目を閉じた。
あの日の事を思い出す。まだ1週間前の事なのに随分と昔の事のように思える。
あれはレイプだった。私はやめてと懇願したし、涙も流していた。事実、恐怖を感じたし、レイプでなければ野川のような冴えない中年に抱かれる事などありえない。
あれはレイプだ。むりやりだった。事実そうであった。それなのに、もう一人の私が私を責めて逃がそうとしない。
あれがレイプ?どの口がそんな事を言えるの?あなたは逃げる事が出来たはずでしょ?大声を出せば人が来る事も分かっていたし、本気で嫌がれば小心者の野川はやめてくれる事も分かっていたでしょ?
手を縛られた時抵抗した?恫喝されて怖かった?あんなにイヤらしく野川のモノを舐めまわしていたじゃない。イヤ。やめて。と泣き叫びながら心の中でもっともっとって唱えてたじゃない。イヤラシイ声を出して、イヤラシイ表情をして
野川を興奮させたのは誰?野川にケツを突き出せと言われて、お尻の穴まで見えるほど野川の眼前に尻を突き出したのは誰?。。。。??
「お客さん。旧山手通りから行く感じでいいんですかねえ。」
運転手の声でふと我に返る。
「えっと。はい。わたしあんまり道詳しくないんでお任せします。」
「わかりました。」
車窓から流れる東京の景色を眺めた。
野川。。あれから毎日のように電話をかけてくる。あの日の事をネタに私を脅すつもりなのか、もしくは謝罪の言葉でも吐くつもりなのか、警察には行かないでくれと許しを乞うつもりなのか
私には分からなかったが、どんな内容であれ電話に出て野川の声を聞くのが億劫で着信を拒否し続けていた。
あれがレイプであったとしてもそうではなかったとしても、どちらにせよ二度と野川には会いたくもないし、ましてや二度と抱かれてやるつもりなどない。只、このまま無視を続けていて問題が解決するはずがない事も分かっていた。
どうすれば良いのか。。
ふと、窓ガラスに向かい深いため息を吐いた。私は無意識の内に曇ったガラスに指で「安藤」と書いていた。
こんな状態で安藤さんに会えるわけがなかった。
そうだ。麻美は飲み会の時、安藤さんと仲良く話していたはずだ。もしかしたら、連絡先を知っているかもしれない。
もし、麻美から安藤さんの連絡先を聞きだす事が出来たら、今晩さっそく電話してみよう。
そう考えると心が躍った。もしかしたら、今日これから会いたいと言えば会えるかもしれない。
ちゃんとオシャレをしてきた自分を褒めてやりたくなった。
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