その57
19時10分。中野坂上にある麻美のアパートに着くと、辺りを一周してみる事にした。
都会とは不思議なものだ。駅の周辺やオフィス街、幹線道路などは、人や車で溢れかえっているにも関わらず、一本奥に入り、住宅街に差し掛かると夜の7時では、まだ家主たちは外出をしているのがほとんどで、町全体が閑散としている。
私には好都合だ。
中野坂上は渋谷区と中野区の境に位置している東京でも人気のエリアだが、麻美のアパートは駅まで徒歩で20分は掛り、築年数もかなり古い。
女子大生が一人暮らしをするには不用心この上ない物件だが、財政上の理由で致し方なくここを選んだのだろう。
そのアパートの外観はまるで麻美の苦労をそのまま表したかのようにくたびれきっている。
エレベーターなど、もちろんない。階段を3階まで上がり、麻美の暮らす306号室の前に立った。
ピッキングのための道具をリュックサックから出す前に念のため、一度チャイムを鳴らしてみる。
ピッキングをして中に入ったら麻美がいた、ではシャレにもならない。
いるはずはない。麻美はバイト中だ。
ピンポーンという間抜けな音が室内から聞こえてくる。やはり誰もいない。
そう思いリュックサックを足元に置いた時だった。
は~いという、返事と共にサムターンが回される音がした。
出てきたのは麻美ではなく、制服を着た女子高生だった。
ブラウスに所々皺がよっている。電気が点いていなかったのは寝ていたからだろうか。
私はそれが誰なのか、すぐに分かった。麻美の妹の優子だ。
だが、なぜここにいる?新潟の実家暮らしのはずだ。私はパニックに陥ってしまった。
どうする?どうすればいい?私の鈍い頭はこんな時ほど、上手く回転してはくれない。
何が正解で何が命取りになる?優子の出現というハプニングは私にとって幸運なのか、不運なのか
それすら、私の頭では判断が出来ない。
逃げ出してしまいたかった。
いや。それはダメだ。
このまま逃げれば、怪しい男が来たと麻美に報告されてしまう。
そうなれば、麻美は警戒を強め、次のチャンスなど二度と来ないかもしれない。
今日しかない。やるしかないのだ。今更、この程度のハプニングで怖気づいてはいけないのだ。
鍵を開ける手間が省けた。そう思えばいい。
「あの~。どちら様でしょうか?」
優子は訝しげにドアノブを掴んだまま、顔だけを室外に出して、私を値踏みするような目を向けてくる。
「あっ。あの~。麻美さんの妹さんかな?実は僕はお姉さんの友人で。。」
「お姉ちゃんのお友達ですか?。。」
優子の顔に警戒心の色が濃く張り付いている。
当然だ。麻美にこんな冴えない中年の友人がいるなど、不自然にも程がある。私の頭はやはり、パニックを起こしたまま、上手く回ってはくれない。
「いや。あの。お姉さんと同じビジネススクールに通っていて、そこで知り合ったんだ。友達といえるほどは親しくないんだけどね。実はこの前学校でお姉さんににノートを貸してもらってね。
それを返そうと思ってきたんだ。」
私は慌ててまくし立てた。不自然な事や辻褄が合わない事を言っていないだろうか。冷や汗が背中を伝う。
「はあ。でも、今お姉ちゃん留守でして。。」
「うん。もちろん分かってるよ。アルバイト中だよね?だから、ドアポストに投函して帰るって、お姉さんにはメールしてあるんだ。
只、一応インターフォンだけは一度鳴らしておこうと思ってね。そしたら、妹さんが出てきて、びっくりしたよ。一人暮らしって聞いてたからね。」
「そうだったんですね。ごめんなさい。私もちょっとびっくりしちゃって。お姉ちゃん、あたしにも一言言っておいてくれればいいのに。。」
「いや。実は僕も麻美ちゃんにはついさっきメールしたんだ。たまたま、麻美ちゃん家の近くを通るから、この前のノート返しに行きます。ってね。
でも返信はなくて、多分もうバイトに入っちゃってて、返信できないんだろうなと思って、勝手に来たんだ。
寝てるところ起こしちゃって悪かったね。」
「えっ?」
「だって、もう真っ暗なのに電気も点いてないし、ブラウスにも皺がよってるし。」
「やだ。ごめんなさい。ついうたた寝しちゃってたみたい。。
あの、良かったら、上がって下さい。って、あたしの家じゃないけど。」
優子の顔からは警戒心は消え、無邪気な高校生の顔が戻っていた。
「それじゃ、少しお邪魔しようかな。」
「どうぞ、どうぞ。散らかってますけど。って、私が散らかしたわけじゃないけど。」
「はははっ。そんな事ないよ。キレイな部屋じゃないか。」
えっと。。そうだ。お茶いれますね。あれっ?この家、お茶なんてあるのかな~。」
「はははっ。お構いなく。」
優子は慣れない部屋で慣れない接客をすることに少し緊張しているようで、せわしなく動き回っている。
優子が動きまわる中、私は二人掛けのソファーに腰を下ろし室内を見回した。
センスの良い部屋だと思った。インテリア関係は3色くらいにまとめられていて落ち着いた雰囲気がある。
物も少なめでガチャガチャした印象がない。唯一、洋服だけがしまい切れないほどあるようで、所狭しと並んでいる。
それはまるで、下北沢あたりにある洋服屋のような雰囲気を出していた。
台所に向かい、悪戦苦闘する優子の背中を見つめる。
明るくて良い子だ。きっと、母子家庭の中、親子二人三脚でがんばっているのだろう。
そんな思いを抱きながら、優子の背中を見つめていると、ブラウス越しに少しブラジャーが透けている事に気づいた。
全身を舐め回すように確認をする。身長は160cmちょっとだろうか。麻美に比べると小柄だが、まだ成長するのだろう。
スレンダーな麻美に比べると優子は肉感的で全体的に柔らかな印象がある。
黒髪のセミロングでアイドルのようなルックスだ。
途端に私の下心がむくむくと起き上がる。
私はこれからどうするというのだ?答えは決まっていた。それしかないのだ。それ以外にはない。
再び、嫌な汗が背中をつたう。
姉妹もろとも、私の餌食になってもらうしかない。
優子には悪いが自分の不運を呪ってもらう他ないのだ。
時刻はまだ、19時半を回ったばかりだった。
時間はたっぷりある。失敗はできない。中途半端な情けや油断1つで私は性犯罪者としてブタ箱に入れられる事になる。
徹底的にやるのだ。やるしかない。後戻りしたところで、待っているのは、飽き飽きした惨めな生活だけだ。
私は楽園を手に入れるのだ。私が王様の楽園を。
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