その54
今日も麻美はカラオケ店の受付を笑顔でこなしている。
私はいつものように、アルバイトをしている麻美を終わりまで監視し、電車に乗り込む麻美を見送り、帰宅するはずだった。
だが、今日の麻美は帰宅するために乗るべき電車には乗らず、別の電車に乗り込んだ。
もう終電もなくなるような時間にどこに行くというのだ。いてもたってもいられずに私も麻美と同じ電車に乗り込んだ。
麻美はどこかソワソワしている。もしやと思い、調査書の安藤の勤務先が記してあるページに目を落とす。
間違いない。行先は安藤の事務所だ。
麻美の横顔を盗み見る。麻美は疲れなど、吹き飛んでしまったような顔をしている。
この一週間、一度も見た事がない顔だった。
麻美は電車を降りるとコンビニに駆け込んだ。私はコンビニに入る麻美を見送ると安藤の事務所に先回りをした。
安藤の事務所は通りに面したビルの一階にあった。
裏口に回ると勝手口のような扉があり、灰皿とベンチが置かれている。
どうやら、喫煙スペースに使っているようだ。
慎重にゆっくりとドアノブを回してみる。
案の定ドアに鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。
喫煙所に使用されている勝手口は頻繁に出入りするため、めんどくさがって鍵をしない場合が多い。
それに鍵をしてしまい、間違って誰かを閉め出してしまう可能性もあるからだ。
私は室内に侵入すると、適当な場所に身を潜め、カバンから動画撮影用のカメラを取り出した。
カメラは何かあった時のためにと思い、一週間前に購入して以来、どこに行くにも手放す事はない。
ふいに安藤の携帯が鳴った。
相手は麻美だ。間違いない。
私はカメラの電源を入れ、構えた。
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