「あれ、駿から聞いてないですか?
うちの母親、実家に越して、今一緒に住んでないんですよ」
思わぬ隆太の言葉に驚く。実家はたしか関西であったか。言葉に向こう独特のイントネーションがあった。
「えっ!?じゃあ今ひとり暮らしなの?
もしかして、生活費も学費もバイトで?」
「とりあえずアパート代は今まで母親と住んでたとこなんで、そのまま母親が支払ってくれてるんだけど、ま、生活費と授業料はこうやってバイト掛け持ちして自分で稼いでます」
笑いながらこともなさそうに言う隆太。
「掛け持ちって、ここ以外にほかでも働いてるってこと?」
親に甘えきってヘラヘラと仕送りを催促する駿の顔が心に浮かぶ。
「はい。家庭教師をちょこちょこと。
俺、大学、教育学部だから、わりと需要はあるんですよ」
「そっかぁ。。本当にうちの駿に爪の垢を煎じて飲ませてあげたい。。あの子ったら、バイトもせず、メールが来たかと思えば仕送り仕送りって」
苦々しく言う美奈子。そして家にいるもう一人の甘えん坊の顔が浮かび、思い付く。
「あっ!そうだ。。
もし隆太くんの空きがあれば、うちの千晶の勉強も見てくれない?あのコも駿と同じで呑気だから、来年受験なのに、塾行くって言って遊んでたり、家でも部屋でゲームとかテレビばっかりで、全然勉強してる様子なくて」
隆太の目が妖しく光るのにも気づかず、続ける美奈子。
「千晶のことは知ってるよね、よく遊んでもらったし。あんなのでも大学行くとは言ってるけど、隆太くんみたいに教育学部で先生目指すとか立派な目的持ってる訳じゃないし。。
駿と同じでただ何となく遊べるかなぁぐらいな感じで大学行く言ってて、そのくせ勉強もしないんだから。そんな出来の悪いの押し付けるのも申し訳ないんだけど。。」
「でももともと千晶ちゃん頭良かったから大丈夫ですよ。ちょうど今、家庭教師も新学期で誰か探してたとこだったんで、駿ママと千晶ちゃんさえよければ。。
そういえば駿パパはまだしばらく単身赴任なんですか?」
息子も家を出て娘と女二人の生活なので、父親の単身赴任については、子どもたちにも口止めさせていたはずなのに、何故かそのことを隆太が知っているのを疑問にも思わず、 「そ。今は関西の支社にいるんだけど、このあいだ聞いたらまだ2年くらい戻って来ないんじゃないかって。。
ま、帰ってきても駿もいないし、千晶も年ごろだから口きいてくれないし、私もあまり相手にしないから、羽伸ばして喜んでるんだろうけど」
笑いながら答える美奈子。
「夕飯も一緒に食べれば?
昔、部活帰りによくそうしてたよね。駿はいないけど、隆太くんなら家族みたいなもんだから」
再び美奈子には気づかれないよう、何か算段するかのように隆太の目が妖しく光る。
「食事はかまわないので。
でも。こっちのバイトもあるから、週2回くらいでいいですか?また授業料とかはあとでご相談で」
「週2と言わず、毎日でも千晶の勉強見てくれるとおばさん大助かりなんだけどなぁ。。」
「そうですね、ま、それは進み具合によってかな」
そう言いながら、内心、
(あんたん家の崩壊具合によっては毎日だって行ってやるさ)と呟く隆太。
「あ、それじゃ、仕事戻んないと。これでもチーフなんで忙しいんですよ。
そうだ、携帯連絡先聞いておいていいですか?」
まだ宴会の席に戻りたくなさそうにしている美奈子と連絡先を交換し、食器を抱え厨房に戻った隆太に後輩が近寄り、耳打ちをする。
「あのおばさんもまたセフレですか?
隆太さん、バイトなんかしなくても食わせてもらえばいいんじゃないですか、マダムたちに」
「バァカ、あんなのセフレじゃねえよ、奴隷だよ奴隷。奴隷2号」
本気とも冗談ともつかぬ隆太の言葉にたじろぐ後輩。
(あっそうだ、奴隷1号にメールしないとな。ほんとにこんなタイミングよくいくと思わなかった。千晶に家庭教師頼ませる手間省けたばかりか、まんまと向こうから招き入れてくれるなんて。やっぱ、幸運の神様っているんだな、ま、やつらにとっては悪魔の導きだろうけど)
そして携帯を取りだしメールをする。
【美奈子が店に来てて、お前の家庭教師することに決まったから。来週からは今までみたいにあいつが寝てからじゃなくて、おおっぴらに出入りするからな。
今週末は店が忙しくていけないけど、毎晩ケツオナしてムービー送れよ。マンコさわったら捨てるからな】
それを千晶に送信する。
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