「あれ、駿ママ?」
春先の職場の歓送迎会で、酔った同僚に囲まれ、飛び交う下ネタに耐えきれず会場を出た美奈子が、少し離れた通路にある椅子に腰をかけていると、給仕姿の男のコに声をかけられた。
後にした会場となっているお座敷からは、
「ダメよ、あの人に下ネタふっても。旦那さんしか知らないんだから」
という同僚の下卑た声やバカにした笑い声が聞こえてくる。
顔をあげるとそこには見覚えのある姿が。
「隆太くん。。?」
息子・駿の中学、高校の同級生で、同じサッカー部だった高橋隆太だった。
慣れた感じでたくさんの空き皿やグラスを両手に持っている。
「ここでバイトしてたんだ?
駿から、大学よりバイトが忙しくて、3年生への進級危なさそうとは聞いてたけど。。
でも久しぶり。。2年ぶりぐらい?
駿とは会ってるの?」
懐かしい顔とたくましい姿に、先ほどまでの嫌な雰囲気も忘れ、自然と笑顔になる。
「授業料稼ぐのに働いて授業受けられないとか、本末転倒ってやつですけどね。
駿には東京遊びに行ったとき、たまに会いますよ。駿ママも知ってるだろうけど、あいつこっちにほとんど帰ってこないし」
そう言って笑う姿は、東京の大学に進学はしたが、仕送りにまかせバイトもろくにせず、めったに帰っても来ない息子よりも大人びている。
「なんか、大人っぽくなったね。ってハタチ過ぎてるんだからもう立派な大人か。。
あっお母さん元気?しばらく会ってないけど、そんなに忙しかったら心配してるでしょ?」
看護師をしている隆太の母は、隆太が小学生の時に病気で夫を亡くし、女手一つで子どもを育てていたこともあって、なかなか部活の応援にも参加できなかった。
そのため頼まれて遠征の送り迎えをしたり、夏休みには一緒に旅行に連れていったりしていたこともあり、その頃は行き合うことも多かったが、二人が進学したため、最近は会う機会もなくなった。
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