車中では、しばらく沈黙が続く…
彼女の甘い匂いが立ち込めぼくの全身を包む。
彼女は、真っ直ぐフロントガラスを見つめていたが、サイドボードを開けて煙草を取り出すと、細長い煙草を真っ赤なルージュにくわえて火をつけた…
「フーッ…」
紫色の煙を吐き出すと、甘い匂いにメンソールの匂いが加わる。
ぼくは、こんな状態なのにその匂いにクラクラ目眩がするほどうっとりしていた。
「お前…」
ぼくは、その冷たい声に我に返り、一瞬で背筋が凍る。
「はい…」
ぼくは、下を向いて自分の靴に目を落としながら、か細い声で答える。
「今回で、もう十回は越えてるわね…」
「えっ…」
ぼくは、驚いて彼女を見る。
彼女は、真っ直ぐ前を見ている。カッと見開いた大きな瞳、美しいカーブを描いた眉、高い鼻筋は、とても高貴だ…
彼女は、膝の上に置いているバックの中からスマホを取り出すと、手慣れた手つきで画面を操作する。細長く白い指が滑らかに動く。
「見なさい…」
彼女は、ぼくの目の前にスマホを持ってきた。
「あぁっ…」
スマホから動画が流れる…
それは…先程…ぼくが…DVDを盗む一部始終が映っていた。
「フーッ…」
彼女は、ぼくの顔に優しく紫色の煙を吹き掛けた。
「バレて無いとでも思ってたの?」
彼女の真っ赤なルージュがイヤらしく上に曲がる。
「…」
ぼくは、絶句した…
「これをYouTubeで流そうかしら…それとも…ラインで流そうかしら…」
彼女は、大きな瞳でぼくを睨み付ける。
「そ・そんな…」
ぼくの膝が、またガクガク震え出す。
彼女は、煙草をくわえると大きく吸い込む…
ゆっくりと…高貴な顔をぼくに顔を近づける…狼狽して涙目になっているぼくを、ギラギラと輝く目で睨み付けると…
「フーッ!!」
紫色の煙がぼくの顔を叩き付ける。
「け・警察に行きます…」
振り絞った言葉と同時に、ぼくの頬に涙が伝わる。
その瞬間…
バシッ
彼女の白く大きな掌がぼくの頬を激しく打った。
ぼくは、一瞬で何のことか理解するのに少し時がかかってしまった。
ぼくは、頬を押さえることもなく唖然となり、彼女を見つめる
頬は、熱くジンジン痛む。
「バカね…」
彼女は、真っ赤に染まったぼくの頬を、白く細長い指でなぞりながら、ゆっくりと低い声で
「警察に行っても…書店に行っても…どっちでも同じと言ったでしょ…」
彼女は、目を細めながら更にぼくに顔を近づける…
「ゆ・許して下さい!お、お願いします!」
ぼくの頬に何本も涙の筋が通り、顎からポタポタと滴が流れ落ちる。
「そうねぇ…」
彼女は、ゆっくり煙草をくわえて、再び紫色の煙を激しくぼくに吹き掛けた。
「少年の万引き現場激写!しかもそのDVDは女王様SM!少年はマゾ!」
ぼくは、哀れみを彼女にぶつける。
「あぁっ…そんな!そんなぁ…」
バシッ
再び、ぼくの頬を彼女の掌が襲う。今回は、更に激しく…
ぼくは、ドアまで体が吹っ飛ばされる。
「どうする?マゾ少年…警察に行っても、書店に行っても流すわ…」
ぼくは、頬を押さえて助手席に縮み込む。
彼女は、ゆっくりと煙草をくわえて、今度は優しく紫色の煙をぼくに吹き掛ける…
「この事を公にしたくなかったら…一つだけ方法があるけど…」
ぼくは、その言葉を聞いて飛び上がる。
「そ!それは!な・何ですか!」
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