女性は、ぼくをニヤニヤ見つめている。
品の良い白いスーツはブランド物だろうか、肩から下げているバックには、シャネルのロゴマークが見える。
「な…何ですか?」
ぼくは、おどおどしながら上目遣いに女性に聞く。
女性は、ショートカットの栗毛色の髪をなびかせて、白いピンヒールをカツカツとアスファルトを鳴らしながらゆっくりとぼくに近づいてきた。
化粧は、濃く。大きな瞳が印象的だ。スッと通った鼻筋…白い肌に、大きめの唇に引かれた真っ赤なルージュが浮かぶ…
彼女は、ぼくの前に立つ。身長は170㎝を越えているだろう。ピンヒールでもっと高く見える。155㎝のぼくの前に立つと、ぼくの目線は、彼女の胸の前にくる。白いスーツの中に、大きく開いた黒いアンダーが見える。浮き出た二本の肩甲骨は、白く艶やかだ。そこから甘く淫靡な香りがぼくの鼻腔をくすぐる。
彼女は、徐にぼくの腕に細く長い腕を絡めて、ぼくを力強く彼女の方に引き寄せた。
「何って…フフッ…分かってるでしょ?このまま、書店に行く?それとも警察かしら?」
ぼくは、彼女の冷たい言葉を聞いて、膝はガクガク震え、胸がグッと何かに押し付けられているように苦しい。心臓の鼓動は激しく速く高鳴り、口の中はカラカラだ。
ぼくは、アスファルトに目線を落として
「な…何の事ですか…は、離してください…」
ぼくは、彼女から離れようとするが、まるで南京錠にロックが掛かっているように、彼女の腕の力から逃れられない。
「あら…そぅ?」
彼女は、シャネルのバックに手を入れると、何やら取り出してぼくの目の前に持ってきた。
「あっ!!!」
それは…ぼくが盗んだDVDのパッケージ…ぼくの憧れのミストレス…
ぼくの全身から力が抜けていく…膝は折れて、アスファルトにしゃがみ込みそうだ。
(この事が知れ渡ったら…母親に…大学に…あぁっ…それも…それも、こんなDVDの事が…嫌だぁ…)
彼女は、ぼくが狼狽しているのをニヤニヤ笑う…
眼は、ギラギラと光りまるで獲物を捕えて今から食す獣のようだ…
彼女は、直ぐに表情を変えると辺りを見回す。人通りの無いのを確認し、力強くぼくを引き寄せて、書店の駐車場の方へぼくをグイグイ誘導していく。ぼくの全身は、その力に支配されるように心も体も、固く、固まっていく…
彼女は、黒塗りのベンツの横にぼくを連れてくると、更にぼくを力強く引き寄せた。
「もう一度聞くわね…このまま書店に行く?それとも警察?それとも…」
再びぼくの頭上から冷たい言葉が降り注ぐ。
「それとも…」
ぼくは、カラカラに乾いた口をワナワナと震わせながら声を絞り出した。
「私と一緒に…付いて来なさい…どうする?」
ぼくは…頭の中がグチャグチャになって…選べない…
彼女は、パッケージをバックに入れて、ぼくの耳元に顔を寄せると甘い息と共に囁く。
「悪い様にしないわ…付いて来なさい…このまま…書店に行っても…警察に行っても…同じよ…フフッ…私の説明を聞いたらね…」
彼女は、そう言うと力強くぼくを押さえ付けていた長く細い腕をスッと僕から離す。
彼女は、クルッとぼくに背中を見せると、ポケットから車のキーを取り出してボタンを押す。車のロックが解けると、彼女は、何も言わずにドアを開けて運転席に乗り込む。
(ボンッ)
彼女がドアが閉めると、ぼくは…何故か…自然と助手席へと歩き出す…何かに導かれているように…
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