その放課後、奈緒は思い切って恵理子の家を訪ねたが、芳しい収穫は無かった。
今、予備校に行っているはずなんですが…何かあったんですか?
突然の担任教師の訪問に恵理子の義母・亜樹は戸惑い、不安げだった。
義理の間柄でも良い関係を築いて来たつもりでしたが、父親が単身赴任してしまい、
口には出さないけれど、恵理子さんにはショックだったのかも知れません。
心から恵理子の身を案じる亜樹の様子は決して演技とは思えず、奈緒は彼女に
余計な心配を与えるのを避けた。
「うっかりしてました。今日は予備校だったんですね。
たまたまこの近くに来たものですから、今日学校で質問された方程式の解法に
ついてお話しようと思っただけなんです。
えぇ、恵理子さんにはまた明日学校で話しますから、お気になさらずに…」
と言い残し、奈緒は深沢邸を去った。
(やっぱり家庭環境には問題ないみたいだわ…
一体深沢さんはどこへ行ったのかしら…)
奈緒の足は恵理子が通っているはずの予備校へ向かっていた。
「小谷先生…」
予備校近くで声を掛けて来たのは彩香だった。
これから講義なのだが、恵理子が来ないかと道路を見ていた時に
奈緒の姿を見かけたらしい。
「恵理ちゃんのお家に行ってくれたんですね…
家にもいないなんて、恵理ちゃん、どうしちゃったの…」
彩香と別れて所在無く辺りを歩き回る奈緒の視線の先に、見覚えのある制服の
男子生徒が目に留まった。
(石田君?)
担任の生徒の石田憲次だった。
不良グループの一人だったが、いつも坂本勝彦にべったりのお調子者で、
一人では何も出来ない小心者に思えた。
(そう言えば、広木さんが深沢さんは不良グループに入ったかも知れないと
言っていた。)
石田君に聞けば何か分かるかも知れない…
奈緒はしばらく様子を見ようと石田憲次の後をついて行った。
この地方随一のこの街は鉄道ターミナル駅を中心に予備校を始めとした文化的な
施設が集まった地域と、目抜き通りにはデパートやファッションビルが立ち並び
ファッショナブルな趣きがある。
その目抜き通りと交わりあるいは平行した通りは夜になると色取り取りのネオン
が瞬く歓楽街である。
石田はその通りも抜けると細い裏路地へと入って行った。
遠くから街の喧騒が聞こえるが、その一角は人通りも無く、薄暮の時間は物寂しい。
(ここに入ったのかしら…)
奈緒が石田の姿を見失ったのは古びた雑居ビルの前だった。
地下に下りる階段があった。
(不良の溜まり場かしら…)
キョロキョロその階段の周りを見回した奈緒の目に
【大人の玩具・アポロ】
の看板が識別出来た。
(こんな店に入ったのなら教師として、見過ごせないわ!)
奈緒は店が店だけに躊躇ったが、静かに忍び込むように店に入った。
店の前の寂寂とした様子とはうって変わり、
店内は多くの男性客の熱気にむせ返っていた。
客たちは彼らの前で行われている女店員に目を奪われ、こっそり忍び込んだ奈緒に
気が付く者はいないようだった。
奈緒はその店員の姿に驚愕した。
全裸なのだ。
店の中央に置かれたステージのようなテーブルに乗り、惜しげもなく裸身を晒し、
何人かの客が彼女の身体を触っている。
「お客様、こちらのバイブは人気商品でございます…
どれくらい感じるか使用前と使用後のオマンコの違いをじっくりご検分ください。」
彼女はバイブを手にしたままM字に脚を広げる。
「今日は俺がムキムキしてやるよ。」
客の一人が彼女の後ろに回り、M字に広げた膝の下から丸出しの女性器に手を伸ばす。
花園を護るように左右に位置する花弁を指先で摘み、左右に広げた。
「おっと懐中電灯は…と。」
そこに用意されている懐中電灯で別の客がその部分を照らし出す。
「あぁん…奥までよくご覧になって…
使用前のオマンコ汁の濡れ具合をお確かめください…」
「おぉ…今日は恵理子ちゃん、ノッてるねぇ…」
誰かがそうつぶやいた。
(恵理子ちゃん…?)
奈緒はもう一度その女店員の顔を見直した。
(ふ、深沢さん…!?)
その時、後ろから誰か奈緒の肩を叩く者がいた。
見るからに下品で貧相な初老の男だった。
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