「先生…この頃、恵理ちゃん、おかしいんです…」
光教学院2年B組担任の小谷奈緒は、教え子の広木彩香から相談を持ちかけられた。
以前はよく2人で帰ってたのに最近はさっさと一人で帰っちゃうんです。
いつも坂本君や佐伯さんのグループと一緒で…予備校もサボってるみたいで…
先生も知ってるでしょ?恵理ちゃんの制服、目茶目茶なミニになったこと。
まだ幼さを過分に残した彩香が上品に頬を赤らめ、思いつめたように切々と訴える。
奈緒の知る限りでは深沢恵理子と広木彩香は幼馴染の親友だった。
大人びた雰囲気の恵理子と内気ではにかみ屋の彩香はまるで正反対の印象である。
ただ、お互い進んで交友を広げるタイプではなく、彩香は恵理子を慕い、
ともすれば冷ややかとも受け取られかねない恵理子が彩香には心を許しているのが
奈緒にも理解出来た。
「そうね、広木さん…深沢さんの服は先生も行き過ぎだと思う。
一度深沢さんと話してみるから、先生に任せてちょうだい。」
彩香の憂いげな表情にパッと光が差し、愛くるしい笑顔を取り戻す。
「あぁ…小谷先生に相談して良かった。」
無邪気に喜ぶ彩香に奈緒は優しく微笑んだ。
最近、坂本の恐喝事件の対応で他の生徒のことを顧みる余裕が無かったみたい。
彩香が生徒相談室を出て行くと、奈緒は反省した。
奈緒は新卒3年目でこの春から初めて担任を任され、仕事にやりがいと希望を
抱いていた。
坂本の事件が起きたのはその矢先だった。
警察沙汰になるなんて名門校の名誉に関わる問題だと、教師の大多数が退学を
主張する中、奈緒は初めての教え子を必死に擁護した。
本当に悪い子はいない。
私が彼を立ち直らせてみせます。
奈緒の熱意が通じ、退学処分だけは見合わされたのだ。
(それにしても深沢さん、どうしたのかしら…)
確かに職員室でも彼女の服装は話題になっている。
聡明な恵理子のことだから、しっかりした理由はあると思う。
ただ、恵理子の家庭は父親が一流商社の重役で、母親は後添えだと聞いていた。
去年、その父親がニューヨークの支社長として赴任し、恵理子の大学受験まで
義母と日本に残り、二人で暮らしているのだ。
そうした家庭環境に問題が?と頭をよぎったが、彩香によれば恵理子と義母の
亜樹さんの関係は至って良好で、休日には一緒に買物に行くほど姉妹のように
仲が良いようである。
「私も一緒に連れてってもらうんです。」と以前彩香が嬉しそうに話していたのを
思い出した。
(考えててもしょうがない。よ~し、生徒のためにも頑張らなくちゃ!)
と奈緒は気持ちを入れるように軽く自分の頭を叩いた。
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