「あれ、駿ママ?」
職場の歓送迎会で、酔っぱらいに囲まれ飛び交う下ネタに耐えきれず部屋を出て、少し離れた通路にある椅子に腰をかけていると、給仕姿の男のコに声をかけられた。
後にした会場からは、「ダメよ、美奈子さんに下ネタふっても、旦那さんしか知らないんだから」という同僚の下卑た声とバカにしたような笑い声が聞こえてくる。
顔をあげるとそこには見覚えのある顔が。
「隆太く ん?」
息子の駿の中学、高校の同級生で、同じサッカー部だった高橋隆太だった。
慣れた感じで空き皿やグラスを両手に持っている。
「ここでバイトしてたんだ?駿から大学よりバイトが忙しくて進級危なさそうとは聞いてたけど」
懐かしい顔とたくましい姿に、 職場の飲み会の嫌な雰囲気も忘れ、笑顔になる。
「授業料稼ぐのに働いて授業受けないとか、ワケわかんないですけどね」
そう言って笑う姿は、東京の大学に進学はしたが、仕送りにまかせバイトもろくにせずめったに帰っても来ない息子よりも大人びている。
「お母さん元気?そんなに忙しかったら心配してるでしょ?」
看護師をしている隆太の母は、隆太が小学生の時に病気で夫を亡くし、女手一つで子どもを育てていたこともあって、なかなか部活の応援にも参加できなかった。
そういえば最近、姿も見ていない。
「あれ、駿から聞いてないですか?うちの母親再婚して、今一緒に住んでないんですよ」
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