花井さんが机の上の私の目の前に、ぽんと投げ落としたものを目にした瞬間、私の頭は混乱し、心臓がドクドクと激しく打ちました。
「つい2、3日前、一人でフラフラほっつき歩いてる中学生がいてな、受験か何か知らんが、えらく荒れた様子でよ。ワシらがココから外に出てくると、ソイツが下に停めてあったワシの車を、ボコボコに蹴っててな。親を引っ張り出してやろうと思ったが、なかなか頑固に口を開かねえから、持ちモン見たらコレが出てきたってわけだ。住所も連絡先ものってるんだが、『あんな恥知らずで汚いヤツ、もう親でも何でもねぇ!あんなヤツの世話になるぐらいなら、自分で何でもやる!』って、エラく抵抗しやがるからよ。とりあえず今は、ワシがソイツを預かっとる。」
私はあの日見たのは見間違えじゃなく、
しかも、今司は花井さんに捕まっていることがわかり、血の気が一気に引いていきました。
「どうした?顔色が悪いぞ?それにしても、ソイツの親の顔が見てみたいよ、全く。もう何日か家に帰ってないのに、どうも思わねぇのかねぇ。ソイツ、母親のこと、『あんな淫乱な変態』って言ってたなぁ。息子にナニ見られたんだか…。
息子がいねぇことをいいことに、オトコでも連れ込んで、ヨロシクやってるんかねぇ?マジメ一筋なオマエはどう思う?」
花井さんは再び、私の横に座り、肩に腕を回して私を引き寄せ、私の顎をつかむと、私は顔を上げられました。
「オマエにもちょうど中学の息子がいるんだよな?」
「…は、はい…。」
「まぁ、オマエみたいなマジメな母親なら、息子もちゃんと利口にしてるんだろ?毎日ちゃんと家に帰って、勉強してるんだろ?」
私は返事ができませんでした。目を閉じて口をつぐむのが精一杯でした。
「コイツ、『山本司』ってんだ。偶然だな?オマエと同じ苗字だ。まぁ、山本って苗字は、世の中にくさるほどいるからなぁ。…コイツ、オマエの息子じゃないよな?」
私は、小さく震えながら、そっと目を開けて花井さんを見ました。花井さんは、
全てをわかった上で、今さら息子と言えない、逃げ場を失った私を追い込んで楽しそうに、ニヤニヤしながら私を見ています。
「車をボコボコにされた上、いつまでも中学生を連れ込んでたら、ワシがとばっちりを食らうハメになるからなぁ。コイツ、何でもやるみたいだしな、ヒッヒッヒッ…」
「えっ!つ、司に何させるのっ!?」
私は、花井さんがよからぬことを考えているに違いないと感じ、思わず司の名前を出してしまいました。
「何だ?やっぱりオマエの息子か?息子がいるから契約できねぇ、って言ってたけど、ちょうどいいじゃねぇか。息子もオマエが帰って来ねぇ方が清々するみたいだし、オマエはウチで朝から晩までみっちり仕事に打ち込めるだろ?」
子供がいることを口実に、拘束時間をできる限り短くしようとした私の思惑は、
私自身で全て台無しにしてしまいました。
「息子も、金さえ置いてりゃあ、オマエが何日か帰ってこなくても、オマエの顔を見なくて済むって、喜んで送り出してくれるだろ?オマエがしっかりカラダを張って稼ぎゃあ、中学の息子も自分で何でもやるだろ?」
そう言うと、花井さんは立ち上がり、携帯で電話をし始めました。
「もしもし、ワシだ。オマエの母ちゃん、ワシのトコで働いてもらうことになったぞ。優しいなぁ、オマエの母ちゃんは。オマエを助けるために、朝から晩まで、カラダを使って金稼いでくれるってよ。ただ、しばらくはウチには帰れねぇからな。金は渡してやるから、それで自分で何とかするんだな。それと、…
オマエにも何らかのケジメは つけてもらうから、覚悟しとけよ。」
そう言うと、花井さんは奥の部屋へ入っていきました。
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