私は何が何だか、わけがわからず、あまりの驚きに、咄嗟に谷本くんを押し返しました。
「ちょ、ちょっと!…こんな時に。へ、
変な冗談はやめてっ!」
「じ、冗談なんかじゃないですっ!ぼ、僕は…ず、ずっと前から…富美代さんのことを…。」
「な、何馬鹿なこと言ってるの?からかわないでっ!あなたらしくないわよ?」
「からかってなんかないですっ!僕は…僕は、富美代さんが好きなんです!」
私は心臓が止まりそうになりました。優しくて気兼ねなく接しやすい人柄に、親しみを感じてはいましたが、二人の大きな子供もいて、彼より20も年上で、太った私のことを一人の女として、彼が好意を抱いてくれているとは、全くわかりませんでした。
「他にいくらでも、若くて可愛い、あなたに相応しい女の子はたくさんいるでしょ?…きっとあなたも疲れて、どうかしてたのよ。今のは何かの間違い、なかったことにするから…気にしなくていいのよ。」
「…僕が彼女ができない理由は、…上京してきてから、心に決めた人…富美代さん、あなたがいつも側にいたからです。」
私はこの時、彼は本気でそう言っていることがわかりました。確かに今まで何度も、いい人は見つかった?コンパで早く彼女作りなさいよ、と母親みたいな感覚で、彼に話してきましたが、彼はいつも
何とも言えない、苦笑いを浮かべていました。何度か冗談で、「一生彼女ができないのは、さすがに辛いから、その時は
富美代さん、一回ぐらいはデートしてくださいよ」と言っていました。私も、「はいはい、冗談でもそんなこと言ってくれて、ありがとう。」と、軽く受け流してきました。私は、まさかそんなことは頭に全くなかったので、気がつきませんでしたが、谷本くんは、長い間、私のことを一人の女として、好きでいてくれたことがわかりました。
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