明くる日から慶太は恩師の現住所を調べ上げた。
以外と近所だった事がわかった。
結婚もしていて、今、中学の娘が1人。
多感な時期だ。
慶太は、恩師にもう一度、抱いて欲しくて恩師を探した。
しかし、結婚もしていて娘もいる。
複雑な気持ちのまま慶太は恩師宅に向かった。
今、務めている学校は担任を持たず、部活の顧問も請け負っていないので、その日は18時頃には戻るだろうと問い合わせた時に聞いていたので、少し早めに恩師宅近くで恩師の帰宅を待った。
恩師の帰宅を確認してから、宅へ向かいチャイムを鳴らす。
゙ピンポーン♪゙
ありきたりのチャイムが鳴ると想像してた女性よりかなり若い女性が現れ『何方?』
慶太は、名乗り
『依然、生徒としてお世話になりました者です。先日、ばったり先生とお会いしまして、ちょっと近くまで来ましたので挨拶に伺いました』
『あっ!!お、おぉ!!け、慶太か…い、今いく。ちょっと、そこでまってろ』
声だけ聞こえるとすかさず、もう1人、女性の声で
『なに、とうさんドモってるの?』
娘だろうと思った。
出てきた恩師は、完全に表情を強ばらせ、焦りの表情だった。
一瞬、二人の間に間があってから先生が
『きょ、今日はど、どうしたんだ?』
慶太は、自分でも信じられないくらい堂々と薄ら笑いを浮かべながら
『先生…ひどいよ。僕を無理矢理犯して、男じゃなくしといてさ…もう、会えないとかって。昔から僕をそう言う目で見てた癖にさ』
『ば、ばか!!慶太!!デタラメいうな!!』
恩師は、ますます焦る。
横で聞いていた恩師の奥さんも堪らず口を挟む
『ちょっと!あなた!!どういう事!!相手は教え子で、しかも男の子じゃない!何、考えてるのよ!!』
奥からも若い女性特有のキンキン声がする
『やだっ!!おとうさん!!それってホモじゃん!!キモいって』
そこで慶太ばドサッ゙と崩れ、泣きはじめた。
『先生、ひどいよ!!ひどいよ!!奥さんも娘も棄てて僕を愛してくれるって言ったのにぃーっ!!身体だけ汚したかっただけなんだぁーっ!!』
パチィン!!
『貴方!!教師でしょ!!汚ならしい!汚らわしい!出てけっ!!今すぐ出てけ!!』
『良子ーっ!!違う!違うんだっ!!良子!!聞いてくれ!!』
慶太は、嘘のように泣き止むとムクッと立ち上がり、無機質な無表情を浮かべ
『先生。僕、帰るね。二度と僕の前に現れないでね…さようなら』
そう言うと慶太はくるりと恩師に背を向けて歩きだした。
恩師は、茫然としている。
まさか、一瞬で全てを失った。家の前のアスファルトへヘタっていると家から窓が開き、大きなバックが2つ、3つと投げられ、続いて着替えも捨てるように投げて寄越され、最後に『二度と顔みせないで!!不潔!変態!』
恩師の心にドス黒い塊が生まれた。
それまでの温厚な顔つきが一変し、ネクタイを弛めながら恩師は慶太を追った。
恩師は走りながら弛めたネクタイをカッターシャツの襟から、シュルッと抜き、前を歩く慶太の首にネクタイを回し、グッと強く引く
『ぐげっ…』
慶太は、それ以上声を発せずもがいた。
しかし華奢な慶太が力で叶う筈がない。
見る見る慶太の顔が後ろからでもわかるようにドス黒く変わって行く。
力いっぱいもがいていた手足もプルプルしはじめ力が抜けてゆく。
やがて、ガクッと慶太の全身から力が逃げる。
首を絞めてるネクタイを外せば慶太の身体は、完全に地面に崩れ堕ちる。
恩師は、強ばった自分の手をゆっくりひらく。
足元に慶太がドサッと堕ちる。
瞬間『げほっ!!げほっ!!がはっ!!がはっ!!』
慶太が噎せていた。
恩師の足元に崩れ、必死に息を吹き返そうと噎せる慶太に
咄嗟に恩師は『慶太!!慶太!!すまんっ!!すまんっ!!』
背中をさすりながら、抱き起こした。
『せ、せんせ…僕、死にたかったのに…先生の…手に…かかっ…て…』
だが、この時には運わるく首の頸動脈が潰れ、肉に食い込んで血流がとまり脳自体が酸欠を起こしていた。
『先生の…残りの…人生、ずっと…一緒だ…ね……』
慶太の首が恩師の腕の中でガクッと落ちた。
通りがかる人や、近所が騒ぎ立て、恩師を追い出した妻や娘が家から慌てて出てくる。
警察が来て、恩師に手錠をはめる。
救急車に運ばれる少年の身体を見た人びとは尚更に小さく見えていた。
慶太の恩師
宮川晴敏
[完]
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