結局、この日は仕事を終えてからと言うモノ、あやめを窓の外に見つけることは出来なかった。私もついつい、窓際に陣取りタバコをふかしながらコーヒーをすすり、いつのまにか日付が変わるまで、取りつかれたように窓の外を眺めていた。
その間、考える事といえばあやめの事ばかりである。
昨日は、成り行きと言うべきか…
夜を共にしてしまった。
今日だって、仕事中はずっと一緒だったし、仕事中は意見や言動は私寄りでサポートしてくれていた。
"もしや、私なんかに気があるのでは?"
そう思えてならないのである。
だからこそ、気になって何時間にも渡って窓際に陣取るに至ったのだ。
午前零時をまわり、小さな音で鳴らしていたラジオが、午前1時を知らせた。
諦めて寝ようと、窓際から撤収をはじめた。
すると駅とは逆側、そう、昨日、あやめと寄った居酒屋の方から、千鳥足の女性が足をもつらせ歩いてくる。
私は、もしや?と思い撤収の手を止め千鳥足の女性に目を凝らす。
一歩、又一歩。
そう近くない距離で、それは、あやめだと判断できた。
なんとした事だ。
あやめを見つけた瞬間の喜びは、今まで味わった事のない昂りではないか。
取るものも取り合えず外に出てあやめに向かって一目散に駆け出してしまった。
余りの勢いと物音に不審に思った同じ社宅の田中が見ていた事にも気が付かず、あやめに駆け寄った。
ふらふらと歩くあやめは、私を認めると
『あー。やっと現れたなぁ。待ちくたびれちったぁ。あははっ』
私のどの記憶を辿っても約束らしき欠片がみつからない。
『約束?しましたっけ?』
するとあやめは、
『うーうん。約束。してないよー。あははっ。でも昨日の居酒屋。くるかなぁーって。ふふふ。酔っぱらいだねー。』
なんだか申し訳なく思えて
『じゃ、今から飲み直そうか?』
するとあやめは、昨日と同じ目で
『お酒は、もういいの。それより、お部屋にお邪魔していい?又はゆっくりさせて欲しいの。1人は、嫌よ』
『ああ、いいよ』
私は、そう言って足取り覚束ないあやめを支えながら自分の部屋に戻った。
玄関に入り、あやめを手伝い、取り合えずあやめをベッドに転がしておいて、鍵をしめてから、あやめと一緒にベッドに転がってるバッグを取り合えず横に置いて瞳を閉じてるあやめをマジマジと眺めた。
昨日より、端正に映る愛らしい顔立。
柔らかな曲線の顎のラインから流線形に流れる首へのラインは、女そのもので、私の本能に直結する。
僅かな胸の膨らみが、アルコールに犯され、たまに大きく膨らんで、ため息に似た大きな息を吹いていた。
『寝たのか…。』確認するつもりではないが。
呟いた。
寝た?と思っていたあやめが瞑っている眼そのままに静かに口を開くと
『今日はシないの?』わかってるようにけしかけてきた。
『ああ。今日はもう遅いからね。ゆっく…んむ…』
全てを言い終わるのを待たずにあやめは、私の口を自らの接吻で塞いだ。
あやめが私の首に巻き付けた両腕がきつく少し苦しい。が、それくらいの方が男が高ぶるのだ。
二回目の夜が始まった。
目が覚めるとあやめは、既に部屋を後にしていた。
充実感と共の目覚めであった。
支度を済ませて出勤する。
昨日の資料作成とまとめの為、会議室へ向かう。
後から、あやめと同社の田中が追い掛けて会議室まで着いてきて
『お話しが…少しいいですか?』
怪訝な表情の田中に少し不安を抱きながらも
『ああ…なんだい?』
田中は、私の背中を押し会議室へ押し込んだ。
終始、田中は誰かを警戒しながら辺りを伺っていた。
『なんだい?何があったんだ?』
突然の事だ。何が起こっているのか解らないのだ。
すると田中は、私に振り返り
『昨日、槙野あやめと夜、一緒でしたね。あの女性は、辞めておいた方がよろしい。良くない噂が絶たない人です。手遅れになるまえに…』
何を言い出すかと思えば…口から出そうだったが、田中の顔に嘘はなさそうだったが、にわかに信じがたい気持ちではある。
『ありがとう。気をつけるよ』しか出なかった。
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