[初夏の隙間]
明くる日、仕事を終えて帰宅の途、昨日のコンビニに寄り、タバコと缶コーヒーを買い、店を出る。
何となく、まさかとは思いつつも辺りを伺う。
やはり、あやめはいない。
だが、妻の存在を忘れたかの様に、妻の手の届かない東京で、別の女の事を考えている自分。
『いかんいかん。東京へは仕事できてるんだ。いかんいかん。』
心の片隅で妻に謝する気持ちが芽生えていた。
人知れず苦笑いを浮かべて社宅へ向かった。
コンビニから僅か二三分なのだが、あやめを期待している自分が否めないのだ。
『本心なのかもしれない』一人、ボソッと呟いていた。
私、田原健次郎42歳
はじめて知った女性が妻である。
妻の言うように、私には平凡が似合っているのだ。
平凡こそが、私を含め、妻子共々、幸せに暮らしてゆく方程式なのだ。と、頭では理解している。否、理解している『つもり』なのかも?しれない。
だが、本能と言うべきか…。
脳裏に浮かぶあやめは、私の胸を締め付け、情動的感情を昂らせ、判断能力を著しく鈍らせていた。
結局、社宅へ着いてもあやめと行き合いはしなかった。
ホッとする反面、寂しい気持ちも同時に味わった。
自分の寝起きする部屋に着いても尚、窓の外を眺め、つい、あやめの姿を探していた。
思えば、ここが正念場で。
踏みとどまるべきラインだとは、みずから理解するのは、まだ、後の話しである。
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