小柄で色が白くて華奢なあやめは、私より先だって歩き始めながら、
『食べ物は、なにがお好きなの?』
振り向き様に私に話しかける姿は無邪気で少女のようだ。
少しだけ、若き日のデートみたいで…。
この時点で、正直、この後で風俗に向かう気持ちは極めて薄れていた。
あやめは、駅とは逆に歩きはじめた。
私は、振り返り振り返り前を歩くあやめに雑踏に負けない程度の声で
『ラーメンがいいなぁ。あやめさんは?何たべたいの?』
前を歩くあやめは、足を止めて少し考えて
『お腹すいて社宅でたけど…何がいいかなぁ。決めて』
屈託なくあやめは、笑顔を振り撒いて、又、前を歩き出した。
これから夏に向かう5月。
なんとなく気持ちも解放かげん。
少しウキウキが、あちこちに感じられ、いつもより少し暑い夜だ。
あやめと少し酔いたくもあった。
丁度、先に居酒屋が見えていた。
『あやめさん。少し飲みませんか?お酒、大丈夫?』
するとあやめは、又、屈託ない笑顔で振り返り
『いいですね♪生ビールいきますかぁ』
快承で赤提灯の暖簾をくぐった。
流石は、東京の居酒屋だ。
活気に溢れ、人が充ちたホールに談笑が要り混ざり、まさにゴッタ返していた。
少し広めの居酒屋のようだが、少し圧倒さえ感じる。
私とあやめは、顔を見合せ
『凄い活気だね!!ちょっとビックリするね』
そう私から切り出すと眼をまん丸にしてあやめは、何度も頷いて答えた。
元気いっぱいの若者スタッフにいざなわれ席についた。
周りにつられ私達も談笑に談笑を重ねた。
夜も21時を回った。
あやめは、すこし瞳がトロンとまどろんでご機嫌なようだ。
『少し、落ち着いた店を探して移ろう』
そう言って席を立つとあやめも当たり前のように席を立った。
今日1日で槙野あやめを色んな角度で見れた。
彼女に興味が沸いている事に気付いた。
少しドキッとしながら、彼女の手をとって支える口実で柔らかいあやめの手をそっとにぎり、店を出ると私に手を繋がれたまま、かたわらのあやめは、身長が低めなので私でも少し見上げがちに熱い眼差しで
『二人きりよね。二人きりがいいなぁ。』
一度出た居酒屋の暖簾を再びくぐってハイヤーを頼み、あやめとラブホへ向かった。
風俗ではない、一般の女性、私好みの女性、これから起こる情事。
ハイヤーの中でいやがおうにも私の胸は高鳴る。
あやめの小さな手を握る私の手は、すこし汗ばみ熱を帯びている。
あやめは、つぶさに私の気持ちを察知し、私の肩に頭をもたげ、繋がれた二人の手に空いてるもう片手の掌を添えて答えた。
ハイヤーの車窓を流れるネオンが、はじめてキレイに目に映った。
緊張もあった。
ハイヤーがホテルに着いて、私とあやめは、貪るようにお互いを求めあった。
二人は時も忘れ、若者のように肌を重ねて欲望をぶつけ合った。
だが、これが
全てのはじまりだった。
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