浴室で、彩子さんの背中を洗う俺。その俺を、倶利伽羅不動が睨んでいる。しっかり洗わないと、罰が当たるぞ……と。
「あのぅ。気になるのでしたら、もう宜しいですよ」
彩子さんの気遣いの言葉に、俺は首をブルブルと横に振る。
「い……、いえ。ちゃんと、洗わせて頂きます」
「そんなに気を遣わなくても……」
そう言って、彩子さんがクルリと振り向いた。うわぁ! 何て素晴らしい女体! しかし……。俺には、マユちゃんが。マユちゃんの裸のほうが、まだ綺麗だ。自分に、そう言い聞かせる。
「今度は、私が洗って差し上げますわ」
彩子さんが、そう言って俺の胸板を洗い始めた。そこへ……。
「姐さん。そいつ、ちゃんと洗っていますか?」
ヤスが、顔を覗かせたのだ。当然に、彩子さんに洗って貰っている俺を見て……。
「おまえ! 姐さんに、何をさせているんだ!」
そう怒鳴って、ドスを抜く。そのとき……。
「お待ち!」
そう叫んで制した彩子さんが、抱き締めた俺の頭を乳房に押し当てるようにして庇い、静かだが威圧感のある声で告げる。
「この人に掠り傷ひとつでも付けたら……、私が承知しないよ」
益々、俺の立場が悪くなるんだけれど。寝首を掻かれても、文句が言えなくなってしまった。
案の定……、このあとの夕食でも。彩子さんが頻りにビールを注いでくるので、料理がなかなか減らない。
「どうぞ」
「いえ。もう、充分頂きましたから」
彩子さんのお酌を遠慮した俺を、ヤスとマサが睨み付ける。
「姐さんのお酌を断るとは……、いい度胸じゃないか」
ベッドは彩子さんと別々になったものの、ここでもふたりが俺を牽制してくる。
「いいな? 姐さんより先に眠ったら、タダじゃおかないから……な」
余計な緊張のお蔭で、眠れない夜になってしまった。
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