「姐さん。風呂の用意が、整いました」
ヤスの言葉を受けて、彩子さんが俺を促す。
「お風呂、宜しいようですよ」
「あっ! お先、どうぞ。俺は、あとでいいです」
こういうのは、レディーファーストで。そう考えた俺は、そう返した。しかし……。またも、ヤスとマサが詰め寄る。
「ふざけるな! おまえも一緒に入って、姐さんの背中をお流しするんだよ」
「幾らなんでも……。それは、ちょっと不味いんじゃ?」
ヤスの言葉に食い下がった俺だが、マサが俺の胸ぐらを掴んで吐き捨てる。
「おまえをどう扱ってもいい……と、おまえの上司からお墨付きを頂いているんだ」
そんな無茶苦茶な! 韓国人粛清連合と、何の関係も無いじゃないか!
そのマサと俺とを別けたのは、彩子さんが抜いた七首の刃だった。
「およし! 私の大切なパートナーに、無礼な真似は許さないよ!」
素直に俺から離れたマサと、それを確認して七首の刃を鞘に収めた彩子さん。その彩子さんが、笑顔で俺を促す。
「それでは……」
「は……、はあ」
姐さんに無礼を働いたら、容赦しないからな! そんなふたりの威圧感が、俺を従順にさせる。俺と向かい合ったまま、帯を解く彩子さん。視線を逸らすことも許されず、俺もネクタイを解いた。彩子さんの襦袢と腰巻きの下は、何も着けていない裸。
「姐さん。どうぞ」
片膝を着いたヤスが、タオルを差し出す。受け取ったタオルで、裸体の前面を隠した彩子さん。俺を促す仕種を見せ、浴室に身体を向けた。
「わああぁ!」
その背中を見た俺の悲鳴が、部屋中に響き渡った。彩子さんの背中に、倶利伽羅紋々!
「済みません。お見苦しくて」
「い……、いえ。素敵な彫り物で」
振り向いて自嘲の笑みを浮かべた彩子さんの言葉に、俺も作り笑いで返した。そう返すしかなかった。俺の背後に立つマサが、ドスの切っ先を背中に押し当てているからだ。
※元投稿はこちら >>