「あぁ、来ちゃったわ…」
隣の市にある大型ショッピングセンターの駐車場にいた。
映画館や飲食店街、様々なアパレルのテナント、食料品売り場が併設された大型店だ。
近年、こうした郊外型のショッピングセンターが増え、土日となれば近隣では大渋滞が発生し、平日でもかなりの人で溢れている。
こうして待ち合わせする間の胸の高鳴りはいつぶりだろう?
だがそれは正常なものではなく、夫には内緒で、しかもネットで知り合った見ず知らずの男に会おうとしている。
いつものゆかりであれば、異常な行動だ。
ゆかりだけでなく、普通の夫婦生活を送っている者にとっても同様であるが。
ゆかりは常に家族・夫を優先し、また彼らを心の底から愛している。
それは間違いないのであるが、何か見えない力でゆかりは引っ張られているように感じる。
「ただお食事してお話するだけだもんね。うん、そう…。ちょっとした気晴らし…。」
誰に言うわけでもない言い訳を自分に言い聞かせ、時が過ぎるのを待つ。
約束の11時まであと5分ほど。
昔から〝超〝がつくほど生真面目なゆかりは遅刻できない性格であった。
駐車場に止めた車内でりょうから指示のあった車を待った…。
今朝、英雄を送り出す際、結婚して以来初めて嘘をついた。
正確には嘘をついたわけではないのだが、休みである事を隠した。
いつものように玄関で抱きしめられた時、心苦しい感情でいっぱいになった…。
「ごめん、英雄…。」
そう心でつぶやいた自分を車内で思い出しては、それを振り払う。
それを繰り返した。
「おそらくあの車だな?」
30分前から駐車場の入口が見える店内のコーヒーショップから様子を伺っていたりょうは赤のGOLFが入ってくるのを見てほくそ笑んだ。
りょうはゆかりとの話の中で生真面目な性格を読み取っていた。
「ふふふ、10分も前に到着か…。
予想以上だな…。
知らない男に会いに来るのに時間前に来るかね~、くくく。」
サングラスをかけステアリングを握っていたゆかりを見たりょうは、それが日光を遮ると同時に、奥に隠れた性への欲望を隠しているようにも見えた。
りょうはまだ見ぬ新しい獲物を求め、ゆっくりと席を立った。
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