「おはようございます。」
始業の時間から大幅に遅れはしたが、誠司が「ミストレス」に出社し
た。
「遅れてしまい、申し訳ありません。」
忙しく立ち回る「ミストレス」の事務所ないに、誰に言うでもなく声を
掛け更衣室へ向かおうとする誠司に、社長の麗華が。
「誠司さん、ちょっと!」まさか、この時間から社長の麗華が出社し
ていようとは。誠司には予想外だった。
「はい、着替えましたら。急ぎ伺います。」せめて、下着ぐらいは履
き替えてからと、思う誠司に。尚も
「そのままで、結構ですから。こちらへ。」社長の麗華に、そう言わ
れては、更衣室に向かう訳にもいかず。
渋々、誠司は進み出た。
「遅れて仕舞い、申し訳ありません。」誠司は、遅れた理由をどう取
り繕うか、必至に考えていた。
「遅れたのは、仕方ないですが。今後はご注意くださいね。」
遅れた理由を追求されず、ホッとした次の瞬間
「あら?そのスラックス。どう、なさいました。」
誠司にしては、最も聞いて欲しくない質問に、
「あ、はい。そ、その。途中で、水を・・」動揺が隠せぬ誠司に。
「あら?何か臭うわね。」いぶかしがる、社長の麗華の奥で。
受付の陽子は、腹がねじれるほどの笑いを堪えるのが必至だった。
と、社長の麗華は、「ねぇ、陽子さん!」突然、陽子が呼ばれた。
「はい!」急いで、飛んでくる陽子に、
「何か?臭いません。」社長の麗華が、陽子に尋ねた。
朝の通勤電車で、一緒だった陽子が、既に制服に着替え業務をこなして
いる。ますます。窮地に追い込まれる誠司だった。
「そうですね。何か、生臭いような?」誠司には、奈落に突き落とさ
れる陽子の一言。
「誠司さん、それ?お水なのかしら。」社長の麗華の目が、厳しく追
及している。
既に、陽子の報告をすぶさに聞いている事務所内の女性達は、この様
子を笑止して見守っていた。
「まぁ!いいわ。着替えていらっして。」針のムシロに座る誠司に、
やっと、開放の時が訪れたかと思った瞬間。
「陽子さん、誠司さんに何か着替えを、ご用意して差し上げて。」
社長の麗華が、陽子に声をかけ。
「着替えを終えたら、部屋までお願いしますね。誠司さん!」
誠司にも、声をかけて社長室へと消えていった。
社長麗華の後姿を見送る誠司に、陽子の声が届いた。
「女性の制服しか無いけど、いいかな。」
朝の現場に居合わせた女性。見られたかも知れぬ女性の言葉に。
思考回路が正常に作動しないまま、陽子の後にしたがった。
事務所の片隅に置かれたダンボールの中から、陽子が取り出し差し出し
たものは、女性用制服のスカートだった。
「こ、これって!す、スカートでは。」誠司の動揺を余所に、
「だって、うちは、女性ばかりですか。」屈託ない陽子の受け答えで
あった。
「し、しかし。こ、これは・・」拒む誠司に、
「さっさと!着替えろ。」「社長が、お待ちよ。」
一瞬!幼顔からとは、思えぬ声に。ビクっと、した誠司にそれ以上拒む
ことはできなかった。
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