浩介はいつもシャワーで済ましている。だから別に沸いていなくても問題は無い。
ただ着替えを忘れた。
着替えは自分の部屋だ。部屋に行くにはリビングを通らなくては行けない。もう全
裸になっていたがバスタオルを巻いて出た。
なるべくなら気付かれない様にと、リビングを通ろうとして信じられない光景を見
た。そのまま壁の影に隠れる。
そこには2人にとっては在り来りだが、常識では考えられない光景があった。
跪く者と君臨する者、男がエレナにお礼を言っている最中に、浩介は出くわしたの
だった。
「エレナ様、今日も使っていただき、本当に有難うございます。明日も誠心誠意務
めさせていただきます。よろしくお願いします。」
「ウフフフ、今日はご苦労だったわね。しかもまたいっぱいお金使ったんじゃな
い。預かったお金も有ったっていうのにね。」
エレナが男の頭の上で、組んだ上の方の足をブラブラさせながら言っている。
浩介は唾を飲み込んだ。影になってエレナは足しか見えなかったが、男の姿ははっ
きり見える。
そのまま後ろ向きで浴室に戻り、シャワーを浴びる。硬くなった下腹部が、中々元
に戻らずに、時間を長く使った。
リビングではあの後どんな事になっていたのだろうか。考えれば考える程硬くなっ
ていく。
やっとの思いで浴室を出て、タオルを巻いたまま自分の部屋に入った。エレナの方
は見られなかった。
部屋に戻って着替えを済ませリビングに行く。男は帰ったみたいで居なかった。
「ウフフ、浩介君って以外と長風呂なのね。一体どこを洗っているのかしら。フフ
フ。」エレナが含み笑いをしながら言った。
見られたのかもしれないと思うと顔が赤くなる。「あの、木下さんは。」話を逸ら
そうと浩介が聞く。
「とっくに帰ったわよ、ウフフ。待っていたけど浩介君が遅いからって、また会う
だろうからって言ってたわよ、ウフフフ。」
悪戯っぽく笑いながらエレナが答える。男にあんな事をさせた後なのに、至って普
通に話している。
「そうですか。」返事をした浩介だったが後が続かなかった。
「さてと、あたしもいただくわね、お風呂。」背伸びをしながらエレナが言った。
エレナはケースの中から、ポーチに一式納められている用品を取り出した。それと
バスローブを持ってエレナは浴室に向かった。
シャワーの音が聞こえた。一人取り残された浩介はエレナが座っていたソファーの
対面に座った。
ガラステーブルの灰皿に、口紅の付いた煙草が2本揉み消されていた。妖しい赤い
色の口紅だった。
灰皿を始末しようと台所に向かう。流しの上で煙草を取り、フィルター部分の根元
で折った。葉の方はそのまま流した。
フィルター部はポケットに仕舞う。いけない事をしている罪悪感が襲う。
布巾で灰皿とテーブルを拭き、元通りの位置に置いておく。
次にエレナが座っていたソファーの前に座り、ソファーに顔を埋めた。エレナの残
り香を探している。
続けて浩介はさっきの男と同じ体制になった。エレナの足元に跪く体勢だ。
そしてエレナが足を付けていた床に唇を付けた。エレナの匂いはしない。フローリ
ングの木の匂いだけだ。
浩介は舌を出して舐めようとした。とその時、浴室の扉が開く音がした。
浩介は焦って飛び起きた。弾みでガラステーブルの端に、肩をぶつけてしまった。
かなり痛かったが我慢して、エレナが座るソファーの対面に、何事も無かった様に
して座った。
「なあに、さっき大きな音がしたけど。」言いながらエレナがリビングに来る。
「あの、いえ、テーブルを蹴ってしまった音です。」しどろもどろになりながらも
浩介が答える。
「そうなの。」エレナがソファーに座り、バスタオルで髪を拭きながら答える。バ
スローブ姿も眩しい。
「あのう、それと灰皿掃除しときました。麦茶でも飲みますか。」浩介がエレナの
顔色を伺う様にして尋ねた。
「あははは、いいのよ、そんなに気を使わなくても、お客さんじゃないんだから。
フフフ、でも喉は渇いたわね、甘えようかしら。」
エレナの言葉に、嬉しそうに浩介は麦茶の仕度をした。「どうぞ。」「ウフフ、有
難う。」妖しくエレナの目が光る。
「美味しいわ。」麦茶を飲み干してエレナが言う。浩介は、言われなくてもお代わ
りを用意した。
「フフフ、そんなにしなくても厳しくしないわよ。厳しくされるって思っている
の、ウフフフ。」エレナが笑う。
エレナには浩介が、自分に傅きたいと思っている事が解かっていた。
少し酔いが回ってきているから、暇つぶしにからかってやろうかとも考えたが、ま
ずはノブ子からだと思い直した。
尤も奴隷に不自由はしていないし、小学生の奴隷なんていらない。役に立つとは到
底考えられないからだ。
その気になれば、いつでも従わせられるのは確信していた。それも初対面の時か
ら、こんな対応を浩介はすると予想していた。
だからしばらくは、家庭教師と生徒の関係を続けるつもりでいた。
だからこそ男の事を、手足みたいに使う自分の姿も見せたのだった。
「いえ、厳しくされてもいいです。先生の教え通りに頑張ります。」少しの沈黙の
後に、浩介が言った。
「勉強だけじゃなく、生活面でも精神面でも教えて下さい。それと名前は呼び捨て
にして下さい。」思いの丈をエレナにぶつけた。
エレナは少し面倒臭い思いになった。やれやれという感じだった。
「解ったわ。色々と教えてあげる。勉強は明日から見るわね。頑張って成績上げ
て、両親安心させてあげましょう。いいわね。」
エレナが優しく言い聞かせる様に言った。
「両親なんて関係ない。あんな奴らなんか、もうどうでも良いと思っています。」
浩介は言った後、口を真一文字に結んだ。
「両親が嫌いだなんて、どうしてそうなったのかしら。」エレナはノブ子に聞いて
はいたが、浩介の口から聞きたかった。
「ほったらかしでした、いつも。僕だって甘えたかったのに。」ぶっきらぼうに浩
介が答える。
「ノブ子さんには甘えなかったの。」浩介を再確認しているエレナがいる。
浩介はそんな事できる訳が無いといった表情で口を尖らせる。
「いつも、オドオドしていて尊敬できないし、母の味方ばっかりする。本当に先生
には悪いけど、親友だなんて信じられないです。」
浩介は的を射た答えを出している。エレナの実物を見てしまったからだろう。
ノブ子の性格はその通り当て嵌まるし、エレナとノブ子が親友だなんて、誰が見て
も納得できる訳が無いのだ。
エレナは考えた。遅かれ早かれ隷属させるのなら、このタイミングでも良いかなと
も思った。
しかし、成人男性であれば、喜ぶツボが手にとる様に解るのだが、相手は小学生
だ。どんな対応をして良いのかが不明であった。
エレナは考えるのが面倒になり、浩介をヒヤリングしながら答えを出す事にした。
「条件があるわ。」凛とした声がリビングに響く。
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