エレナは自分の足に隠れた浩介の表情は見えなかったが、敢えてそのまま様子を見
ていた。
普通なら眠りを妨害された事で腹をたて、蹴り付けて踏み躙り、相応の罰を与える
場面だ。
今も舐めていたり、顔を擦り付けたりしているのであれば、容赦無く蹴り倒して、
2度とやらない様に痛めつけるつもりだった。
でも観察すると、月明かりに照らされた浩介が、自分の足裏に顔を付ける様にし
て、泣きながら願い事をしているのが理解できた。
エレナは浩介に、蔑まれたいという願望が強くある事を、今改めて理解した。構っ
て貰う為だけにしている服従では無かったのだ。
浩介には、強いエレナへの隷属意識があった。しかしエレナは、この少年もノブ子
も同じ様に扱うつもりでいる。
エレナにとっては2人共、最下層の扱いをする家畜以下の存在である。その結果殺
してしまう事になるのも否定できないでいた。
もう既に人間だという意識は持っていないし、気分次第で遠慮無く振舞う事が、こ
の2人と自分との関係だと思っている。
その片方が、自分の体の中で、最も汚れているであろう足裏に、顔を摺り付けんば
かりにして願いを唱えている。
それも泣きながら、何回も何回も復唱し続けていた。普通では考えられない異常な
光景である。
浩介には分相応の行為であるが、エレナは自分の立場を理解しているこの家畜に、
愛情に似た哀れみを感じていた。
「何をしているのかしら。」少し語気を強めたエレナの言葉が響く。
浩介が飛び上がる程に驚く。驚きすぎて声が出せない。
神聖な儀式を見られた事で、パニックになっていたのかもしれない。
「あたしが聞いているのよ。」凛としたエレナの声が再び浩介に刺さる。
「ご、ご、ご、ごめんなさいぃ。」やっと声を絞り出してそれだけ言うと、畏まっ
て震えていた。
「あたしの足に何をしていたのかしら。聞いてるのよ。」明らかに怒気を含めた口
調で言いながら、上半身を起こした。
蹴られると思っている浩介は、体を硬直させて震えている。
「ウフフ、ずっと見ていたのよ。何をお願いしていたのかしら、あたしの足にね、
フフフ。」
そう言いながらエレナは、浩介の頭の両脇に足を下ろした。
浩介は頭の近くにエレナの足が下ろされた瞬間に、ビクっと大きく震えた。いつ片
足が上がり、振り下ろされるか解らない。
「ごめんなさい。許して下さい。」もう体罰はつらい。浩介は願いを込めて謝る。
「何をしていたのか説明なさいな。あたしに言えないのなら、それでもいいわ。そ
の代わり覚悟がいるわよ。」
正直に話さなければ罰を与えるという、エレナの最終通告であった。
エレナは言った後に、足を組もうと右足を上げた。瞬間浩介が絶叫する。
「ごめんなさいぃ。言いますからぁ、もう、もう、蹴らないで下さいぃ、エレナ様
ぁぁ。」
浩介は当然エレナから蹴り付けられると思ったのだ。硬直させた体を震わせ、必死
に懇願した。
勘違いをした浩介を見たエレナは、可笑しくて笑った。絶対服従の家畜は、飼い主
の自由にされる運命しかない。
「あははは、それはお前の説明次第よ。早く何していたのか言ってごらんなさい
な。」エレナが催促する様に言う。
浩介はエレナがそんなに怒っていない様子なので安心したが、どう説明すれば良い
のか整理できないでいた。
「具合が治る様に、エレナ様に祈っていました。エレナ様の事を想うと、どんなに
具合が悪くても楽になれるからです。」
数秒間の嗚咽の後、浩介は続ける。
「背中が痛くて眠れなくて、エレナ様を見ていたら気にならなくなったから祈って
いました。ごめんなさい。許して下さい。」
浩介は泣きながら詫びていた。跪いて畏まったその姿勢で、床に頭を付けて震えて
いる。
もう後戻りの出来ないご主人様との関係を、全てに於いて受け入れている姿勢が、
自然と出ている格好だった。
「それであたしの足には何をしていたのかしら。足の裏を勝手に舐めていたわよ
ね。」解っていながら浩介を追い込んだ。
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