「懐かしいわね。6~7年ぶりかしら。中学時代は楽しかったわね。」エレナが口を
開いた。
改めてエレナを見た。これが同じ人間なのだろうか。ノブ子は言葉が出ない。
「どうしたの太田さん、あなたに頼まれたから来たのに。何か話してよ。」エレナ
が続けた。ノブ子の心臓は破裂しそうだ。
「来てくれてありがとう。」そう言うのがやっとでまた下を向いてしまった。
「どうしたのよ太田さん、せっかく来たのに説明してくれなきゃ解らないじゃない
の。」エレナの口調が強くなった。
「ごめんなさい、西条さん、久しぶりで緊張しちゃって。」また下を向いた。
ガラステーブル越しにエレナの足が見える。素足だ。緊張でスリッパを出すのも忘
れていた様だ。
黒のペディキュアに赤い花の飾りが付いている。綺麗に磨かれた貝の様な爪が並ん
でいる。
組んだ足先がゆらゆらと揺れている。吸い込まれそうな足だ。美しい人は細部に至
るまで美しいのか。そうノブ子は思った。
突然足先が替えられた。エレナが足を組み替えたのである。ビクリとしてノブ子は
顔を上げた。
「あたしの足何か変?さっきから見ているけど、フフフ。」エレナが意地悪く笑っ
た。
「ごめんなさい、そんなつもりじゃ・・・、緊張していて。」再びノブ子が謝る。
スリッパの用意を忘れた事は謝れずにいた。
「別に謝らなくてもいいのよ。謝るのはこっちだから。」エレナは続けて、「家庭
教師の事だけど、やっぱり難しいのよね。」
今更というか安心していた分だけショックが大きい。「どうしてなの。できない訳
は何。」ノブ子は焦った。
「時間が勿体無いのよ。やりたい事たくさんあるし、小学生の家庭教師なんて柄じ
ゃないしね。」エレナは断りに来た事を詫びた。
「安請け合いの返事しちゃったから気になって、電話じゃ失礼かと思ってお邪魔し
たの。本当にごめんね。」
ノブ子はパニックになった。職場を追われる。それ以上に住む場所も無くなる。事
は深刻だ。
楽観視していた自分が悪いのだが、全てがエレナの胸三寸の事実がある。自分の力
ではどうにもならない事実だ。
どうすれば・・・、ノブ子は必死に考えた。決して仲の良い友達では無かったエレ
ナに無理強いはできない。
かといって、エレナ以上の人物は探し出せない。恥も外聞も無かった。この家に今
はエレナと2人きりで、他に誰も居ない。
ガラステーブルをずらし、悠然とソファーに座るエレナの前に土下座した。
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