その夜、エレナに連絡をした。
「もしもし、中学で同級生だった太田ノブ子ですけど・・・。」
少しの間があり、「ああ、同じクラスだった太田さんね。なつかしいわね。どうし
たの。連絡くれて嬉しいわ。」
「西条さんに私の知り合いの家庭教師を頼めないかなと思って・・・。急なお願い
で悪いんだけど。」
「今は忙しいのよね。時間が足りないくらいよ。」 エレナが少し面倒臭そうに話
し、逆に聞き返す。
「太田さんにとって大事な人なの?」
完全に断る気は、まだ無さそうだ。ノブ子は努めて平静を装いながら話す。
「住込みでお世話になっているところの息子さんなの。まだ小学生なのだけれど、
両親たっての頼みなの。」
この後ノブ子は詳しく事情を説明した。自宅の場所、自分の置かれている環境、や
っとエレナを探しだせた事。
エレナも毎日は無理だろうけど前向きに考えると約束してくれ、感触としては良か
った。
ノブ子は安心した。昔苛めていた事など向こうは忘れている様だったし、懐かしが
ってもくれた。
仲のいい友達になれるかもしれない。そう思ったりもした。
次の日の朝、浩介にその事を伝えると「うるさいデブ子、家庭教師なんかいらねー
よ。」と、にべもない。
「浩介君の為だからお願いします。」ノブ子の言葉に浩介は返事もしない。
「またデブ子みたいなブサイクなのが来るのだろう。絶対に嫌だからな。」浩介は
そう言い残し、学校へ向かった。
朝の掃除や片付けがひと段落ついた頃、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けるとそこには滅多に見る事のない、形容のできない程の美女が立ってい
た。背が高く見上げてしまう。
「はい、秋葉ですけど・・・。どちらさまですか。」ノブ子は伏し目がちに聞いて
みた。まともに顔を見る事ができない。
「私よ、西条エレナです。太田さんでしょう。」ノブ子は固まってしまった。エレナ
という元同級生の容姿に痺れてしまっていたのだ。
「教えてくれた住所はここでしょう。中に入っていいかな。」エレナの声に我に返
り、ノブ子は夢中でエレナを招き入れた。
「そこのソファーへ座って下さい。今お茶を入れます。」リビングに通し、台所で
お茶の支度をする。
身長は170センチ近くあるだろうか。150センチのノブ子とは頭一つ違う感じだ。絹
の様な髪が肩に靡き、美しい顔を引き立てている。
優雅な身のこなしでエレナはソファーに座り足を組んだ。日本人サイズのソファー
では、足が窮屈そうだった。
欧米人特有の長い足がおいでおいでをする様に揺れている。頭の先から足の先まで
芸術品の様なラインを描いている。
中学時代から目立っていたが、当時とは比較できない程に洗練されている。跪きた
くなる様な美だ。
エレナに見られている。背中に視線を感じながら、ノブ子はお茶とケーキの用意を
した。震えているのが自分でも解る。
エレナの美しさは凶器の様だ。立っていられない程の緊張の中、やっとエレナの向
かいに座る事ができた。
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