「フフフフ、こっちを向きなさい。」言いながらエレナは割り込ませた足を、ノブ
子の顎に掛け上を向かせた。
ノブ子はまだエレナの匂いを嗅いでいたかったが、強制的に上を向かされた。
「毎月50万よ、それ以下ではやらないわ。」
エレナの無謀な要求に対して、返事ができないでいるノブ子は、視線を落とし下を
向いて俯いた。
「お前逆らうの、約束を忘れた様ね、だったらこの話は無しだわ。」冷たくエレナ
が言い放った。
でもどう返事していいのか・・・、ノブ子には解らなかった。
エレナは即答しないノブ子に苛立った。
ノブ子はまた下を向いてしまっている。答え様の無い条件提示だ。
しばらくの沈黙が続く。ノブ子の目の前には、エレナの見事な足が焦れた様に動い
ている。
急にその足が翻る。エレナの苛立ちが限界を超えた。
肩に足をかけノブ子の上体を起こす。ちゃんと顔を上げろという命令だと思ったノ
ブ子は、すぐにエレナの方を見ようとした。
とその時だった。
バキッ・・・、容赦の無い蹴りがノブ子の顔をまともに襲ったのだ。
吹っ飛んだノブ子は、頭をしたたかに打ち、脳震盪を起こしていた。
薄れゆく意識の中、エレナのミュールが迫ってくるのが見えた。次の瞬間顔の左半
分に凄まじい痛みが走った。
ゴリッ、ゴリッ。ミュールのヒールが左頬を突き抜け、口内で舌を刺した。考えら
れない劇痛で、ノブ子は正気に戻る。
「お前の調教料も込みなんだよ。どうして即答できないの。逆らうんだったら捨て
るわよ、このボケブタが。」
踏み躙りながらエレナが罵倒する。体格の違いから、怒らせればひとたまりもな
い。ボロ雑巾の様に踏み躙られている。
口の中が切れて血の味がする。殺されるかもしれない。ノブ子は恐怖のあまり失禁
した。
「あはははは、あれ、このブタ漏らしちゃったわ。」エレナはやっと甚振りを止め
た。
ソファーに戻り、ノブ子に告げる。「自分が悪いと思っているなら、這ってここま
で来るのよ。」
ノブ子に選択肢は無い。やっとの思いでエレナの足元に這って行った。改めて土下
座し、頭を擦り付けた。その体は震えていた。
「あたしの怖さ解ったの。」頭を踏み躙りながらエレナが問う。
歯も折れているのだろうか、血の泡を出しながらパクパクと口が動く。嗚咽と恐怖
で言葉にならない。
「あたしの要求通りでいいのね。」足下であえぐノブ子の顔を覗き込みながらエレ
ナが言い聞かせる。
カクカクとノブ子の首が縦に揺れる。
エレナは、もうノブ子に対し、何も遠慮なんてしなくてもいいという事を、この日
に決めた。
「汚い顔と体、洗ってきなさい。」シャワーを命じた。「そして裸のまま出てきな
さい。」続けてエレナが指示を出す。
ノロノロとノブ子が動き始めた。エレナは少し苛立ったが、今は許した。
しばらくして出てきたノブ子は、裸のままエレナの前で跪いた。
「取ひ乱ひて申ひ訳あひまへんでした。どふか捨てないで下さい。」ノブ子はうま
く発音ができない。
こんな目に遭っても縋りつくなんて、どこまでできるのか楽しみではあるけど、最
後は殺してしまうかもしれない、とエレナは思った。
顔を上げさせて驚いた。左半分が紫色に変色しているし、鼻も曲がっている。頬に
穴が開いている。歯も随分折れている様だ。
「痛むのかしら、まだ。」エレナの問いに、「我慢できます。エレナ様に逆らった
私が悪いんです。」ノブ子はそう言い、頭を下げた。
「いいわよ、そんなに頭は下げなくても。また出血すると汚いから。それよりお前
が漏らしたものを掃除しなさい。」
振り向くとフローリングが濡れている。所々に水溜りがある。自分の粗相だった。
顔を赤らめながらも黙々と片付けた。
今しがた血も汚いと言われた。エレナにとって自分は汚い存在なのだ。そう思うと
ノブ子は、体が弛緩し始めているのを感じていた。
「終わったの、だったらこっち来なさい。」エレナが指定席を指示する。
黙って従うノブ子。「お金持っておいで。」すぐに手渡した。「お前の預金通帳
は。」
エレナに嘘は付けない。やっとの思いで貯めた額面100万円足らずの通帳を渡し
た。ノブ子は無一文になった。
「あたしもここで暮らすわ。」エレナが言った。
エレナの傍に居られるのは嬉しい限りだが、どういう事だかノブ子は解らずにい
た。
「両親居ないんでしょう。ここからなら大学も近いし、召使いもいるしね。」ノブ
子の顔の前でエレナのミュールが踊っている。
踊るミュールから、かすかに媚薬の匂いがする。
「一緒に暮らして頂けるという事ですか。」ノブ子が顔を上げて、エレナに聞き返
した。
エレナを見たが、ノブ子の視界はミュールの裏で遮られている。ミュールの裏と話
をしている様だ。でも不思議と嫌悪感は無かった。
「ふふふ、嫌なのかしら。」ノブ子の額をミュールの裏で叩きながら、エレナが言
った。
「とんでもないです。嬉しいです。」慌てて返事をする。
「お前、血は止まったみたいね。頭を下げてごらん。」エレナの言葉にすぐに従っ
た。
その後頭部には、少し強めの荷重が掛かった。
「これからは四六時中こんな関係よ。これはお前も望んだ事なの。それは解るわ
ね。生活費に関しては、あたしが管理してあげる。
どうしても欲しい時にはお願いしなさい。ふふふ、恵んであげるわ。両親が帰って
来た時は、お前が適当な言い訳をするのよ。」
さらに強く踏みながら、返事を待つ。さて、ノブ子はどんな返事をするのだろう
か。エレナは楽しみで、早く答えを聞きたかった。
「有難うございます、エレナ様。今後も全てご指示通りに従いますから、どうか一
緒に暮らして下さい。よろしくお願いします。」
満点の答えだ。エレナは満足していた。
「ふははは、そんなに一緒に暮らして欲しいの。いいわ、そこまで言うなら居てあ
げるわよ。」
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