その日の夕方、家庭教師が決定した事を浩介の両親に電話で報告した。
母親が事の他喜び、特別ボーナスで20万円を約束してくれた。夜になり浩介にもそ
の事を伝えた。
早くゲームがやりたかったのだろうか、返事もせずに自室に行った。
ため息をつき椅子に座った。背もたれで背中の傷が擦れ、ヒリヒリと痛んだ。顔も
頭もズキズキする。
まぶたもおでこも腫れている筈なのに、元々が腫れぼったい顔をしている為か、感
心が無いのか浩介が気付いた様子はない。
「これからどうなるんだろう。」ノブ子は小さく呟き、目を閉じた。昼間のエレナ
とのやりとりを思い出し、股間が熱くなった。
「エレナ様。」いつしか手が伸び、ご主人様の名前を叫びながら果てた。
夜遅くに母親が帰ってきた。「奥様、お帰りなさいませ。」ノブ子が挨拶する。
「ノブ子さん有難う。助かったわ。」機嫌が良さそうだ。
「浩介には伝えたの。」母親がノブ子に確認する。「伝えましたけど、浩介君はあ
まり乗り気では無いみたいです。」
冷たい麦茶を出しながら、ノブ子が答えた。やっぱり使えないわね、といった目で
母親がノブ子を見る。呆れている視線だ。
「私から話すわ。浩介はあなたの事を馬鹿にしてる様だし、言う事聞かないのでし
ょう。」嫌味な言い方だ。
結果が悪いと途端に機嫌が悪くなる。「申し訳ありません。」小さく謝った。
「いいから浩介を呼んできて。」短く母親が命じた。
しかし母親だけあって、浩介はしぶしぶながらも家庭教師の事を承諾した。成績が
上がれば止めても良いという条件だった。
その後ノブ子は母親に呼ばれた。「実はノブ子さん、今私の会社忙しいのよ。それ
で今よりも帰る回数が少なくなると思うのよね。
だから今以上に、家の事をあなたに任せたいと思うけど大丈夫かしら。」「どのく
らい帰って来れますか。」ノブ子は不安だった。
「週に1日とかが限界かな。あなたの給金と家庭教師の方の月謝、それと生活費で
50万出すからそれでやってほしいのよ。これだけ
のお金があれば、誰にだって頼めるけど、敢えてあなたに任せてあげるわ。どうか
しら。」
どうだ、と言わんばかりに母親が言う。
月の生活費は15万円くらいで足りる。自分の給料を20万円としても、家庭教師の月
謝を10万円以上は払える計算だ。
「解りました。何とかやりくりしてみます。」ノブ子はそう答えた。いつの間にか
ボーナスの話は消えていた。
「じゃあ頼んだわよ。金銭的には楽な筈だからやってちょうだい。それとあなた寝
起きなの?今日は帰って来る事言ってあったのだ
から、ちゃんと起きて待ってなさいよ。腫れぼったい目をして気分悪いわ。そんな
だから浩介も馬鹿にするのよ。ほら50万よ。」
やはり最後も嫌味だ。しかし本当の事を浩介の母親に言える筈も無い。「今度から
気を付けます。」そう言い、お金を受け取った。
「シャワーを浴びたら寝るから、明日は9時に起こして。」「かしこまりまし
た。」母親は浴室に向かった。すぐにシャワーの音がした。
ノブ子はこのまま寝ていいかどうか悩んだ。とりあえず出した麦茶のコップを洗
い、母親が脱いだ上着をハンガーに掛けた。
でも顔が腫れているのを気付いてくれた。ノブ子は嬉しかった。なぜかフラフラと
玄関に行った。エレナを最後に見送った場所だった。
母親のハイヒールがある。エレナのミュール程では無いが、高級そうな靴だ。乱暴
に脱いだのであろうか、片方が倒れていた。
手に取ってみると表面が少し汚れていた。舌を出して舐める。汚れがとれた。中を
嗅いでみると少し饐えた匂いがした。
「気付いていただいて、有難うございます。」ノブ子は心の中で呟いた。その後綺
麗に磨いて下駄箱にそっと仕舞った
エレナが帰る時、靴の裏でもいいから舐めたかった。でもエレナはそのまま帰って
いった。強い欲求不満が残ったままだった。
ノブ子は浩介の母親の事は好きではない。ズバズバと嫌味を言われ、嫌いだと感じ
ている。でもエレナへの欲求不満がそうさせた。
痴態を広げたこの家と、玄関という場所にある、このハイヒールのせいなのか。ノ
ブ子は自分自身でもこの行動は解らずにいた。
ただ、エレナに自分を蔑んでほしい。エレナの全てを受け入れたいと強く願ってい
た。心の闇が拡がり始めていた。
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