契約彼女7‐8
「なんですか?」
俺の呟きに答えた友恵は、そろりと開けたドアを閉めようとしていた。
「探し物ですか? 起きてたなら、電気つけないと目が悪くなりますよ?」
蛍光灯が照らす前に、手に持っていたDVDを押し入れへ素早く戻した。
「いや、別に……」
白い光が降り注ぐ。
「何か食べました?」
「いや……特に」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
友恵はいつもの所に荷物を置き、当然のように冷蔵庫を開け、当たり前のようにキッチンへ立つ。
そして、見慣れた後ろ姿を俺に見せた。
でも、いつもと違ってとても愛しく映るのは何故なのだろう。
「あのさ……」
「はい?」
「元カノが……」
「はい」
「会いたいって言ってんだけど」
「えっ?」
後ろを向いていた友恵は此方へ向き直り、満面の笑みを浮かべる。
「良かったじゃないですかっ」
「……何が?」
「何がって……仁さんは、嬉しくないんですか?」
お前は嬉しいのか?
「……今夜は最後の晩餐ですね」
彼女はまた背中を向け、晩餐の準備に取りかかる。
「お前はそれでいいのか?」
「……はい?」
「会うってだけで、ヨリを戻すとは……一言も……」
そう言っている間にも、美佳の言葉がぐるぐると駆け巡る。
手遅れになる?
それ以前の問題ではないのか?
「仁さんが幸せになれるなら、私はそれで満足です」
友恵は言う、
「悲しみから立ち直ったのなら、私たちの関係には意味があったってことですから」
と。
まるで、勝利を導いたがために散っていったジャンヌダルクのようなことを。
そう、友恵は悲しみから立ち直っているのかどうか、俺にはわからない。
俺を前に向かせるために関係を持ち、それを達成できたら自分は消えていく……そんな口振りだった。
しかし俺はそこまで突っ込めなかった。
里奈と会うことを喜ぶ友恵を前に、愕然としている自分がいた。
「そうですね……明日、あの場所へ連れてってください」
「あぁ……」
もはや、友恵の声は音に変化していた。
寂々とした、包丁とまな板が織りなす音の一部として。
契約彼女7 END
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