契約彼女7‐7
美佳を送り届け帰った時には、日はすっかり落ちていた。
街灯の光が、カーテンを開け放ったままの窓から入り込み、室内を青白く染めている。
俺は一人灰皿の所へ歩み寄り、換気扇を回した。
「はぁ~……」
ほろ苦いフレーバーが口に広がる。
五月蝿く回る換気扇の下で、美佳の言葉を反芻していた。
手遅れになる、という言葉を。
友恵との関係がずっと続いていくものだと思っていた。
何となくだが、そんな気が起こっていた。
でもそれは、ずっと続けていきたいという希望でしかない。
俺と彼女の間には、意味のわからない契約がある。
それがある以上、友恵がいつ離れていってもおかしくはない。
そのことを、改めて思い知らされた。
そう……俺は友恵が好きなんだ。
そんなこと、とっくに気付いていた。
なのに何故、今まででそれを伝えなかったのだろう。
友恵と一緒にいることが当たり前すぎて……
日常の一部に溶け込みすぎていて……
気持ちを伝えることを忘れていた。
でも……でもそれは、友恵の気持ちを知ることが怖かったからかもしれない。
当たり前の日常が、当たり前でなくなってしまう気がして。
ふと目をやった押し入れは少し開いていて、漆黒の闇を向こう側に蔓延らせている。
バイトに行く前に掃除をしてくれたのだろうか。
「………………」
気付いたときには、押し入れを開けていた。
漆黒は散り、部屋を照らす街灯の光がその中にも入り込む。
俺はいくつかあるそれらから一つを取り出し、思わず息を飲んだ。
俺の手には、友恵の言う「でぃー・ぶい・でぃー」がある。
別の物を引っ張り出し、また息を飲む。
友恵の様子が変わったあの日が想起されていく……。
最近彼女の感度が増したと思っていた。
俺を迎え入れたその時には、既に上記した眼差しで俺を見上げていた。
でもそれは、俺がバイトの間にこれらのDVDを観ていたからではないのか?
胸の使い方も、上になっての腰の振り方も、喉の使い方も……。
それは、彼女が望むことだから……本当に?
本当は、俺が望んでいると思ったからではないのか?
俺のために、学ぼうとしていたのではないのか……?
「友恵……」
思わず呟いていた。
彼女が胸から溢れてきて、その名を口走っていた。
「なんですか?」
その声に答える友恵が、そこに居たことも知らずに。
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