契約彼女7‐6
暮れなずむ街並み。
それを眼下に眺める俺もまた、世界を黄昏に染める夕日を浴びていた。
「すごく綺麗……」
美佳は呟く。
「これがトモのなんて……いいな」
と。
さんざん抱き合った俺たちは、何故かここに来ていた。
いや、珍しくショートパンツだった美佳を目の当たりにすると、実は確信犯だったのかもしれないと思えてくる。
スカートでは、バイクの後ろに乗せることができないからな。
視線を自分の手に下ろした美佳は、今まででずっと嵌めていたあのシルバーリングを、指からそっと外した。
そして、何も言わず、静かにその指輪を見詰めていた。
彼女は今、何を考えているのだろう。
「………………えいっ!」
「ちょ、えっ?!」
あろうことか、美佳はそれを投げ捨てたのだった。
俺に抱かれている間もずっと嵌めていた、あのシルバーリングを。
「……私も、ここから始めます」
トモからある程度のことを聞いていたのだろう。
そう呟いた美佳は黄昏を眺めながら、風に吹かれた髪を耳に掛けた。
「正直に話して、フられて……また、一から頑張ってみます」
「……フられないかもしれないじゃないか」
「もしフられなかったら、彼は、私には素敵すぎますよ。きっと、彼に相応しい女になるまで……別れてもらうと思います」
やっぱり彼女は彼のことが好きなんだと思い知らされた。
それ故の寂しさが、美佳を狂わせてしまったのかもしれない。
でも、自分の力で前を向こうとしている美佳がいる。
成長しようとしている美佳がいる。
俺なんかよりもずっと強い美佳がいる。
「先輩は……このままでいいですか?」
「え?」
振り返った彼女の顔は、どこか大人びていた。
「気付いた時には、手遅れになっているかもしれませんよ?」
手遅れに……なっている……?
「それは、どういう……」
なんだろう、この不安は。
里奈に会えば、この不安の正体がわかるのか?
「言えません。女の友情です」
美佳は顔を綻ばせ、また街を見下ろした。
此方に向いた彼女の背は、時々何かを堪えるように震えている。
夜が滲んでいく空の向こうには、幾つかの星が瞬いていた。
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