契約彼女7‐2
「んじゃ、情報番組で。BGMはピコピコ音中心に使うから集めといて。そうだな……来週の金曜くらいまでに」
俺の指示に頷くミキサー陣。
「取り敢えず一回目の放送は喫茶店特集。原稿は、お店に行ってから書いてもらうのでアナウンサーは予定合わせといて。締め切りは……オリエンテーションの日でいいかな」
皆スケジュール帳に予定を書き込み、一回目の打ち合わせは終わった。
この頃になると、いよいよ秋学期の始まりが実感できてくる。
「ふぅ~……」
番組を組み立てていた脳内が、里奈のメールで埋め尽くされていく。
いや、正確には、メールの事を伝えるべきかどうかという思考が、また頭の中をぐるぐる回り始めた。
「先輩?」
「え?」
俺を覗き込む美佳の顔に、ハッと意識が帰ってくる。
「どうしたんですか? ボーッとして」
まるで探るような視線を這わせる美佳。
打ち合わせ中の純真さは消え、妖艶な鋭さが伴っている。
「溜まってるんですか……?」
「お前、何言って……」
と言いつつ辺りを見回してみるも、美佳を除いた班員はとっくに学内喫茶から姿を消していた。
「ま、まぁ、取り敢えず……」
椅子に深く腰を掛け直し、横にいる美佳から少し距離を取った。
「今それどころじゃないんだ」
「ん?」
首を傾げて見せる美佳。
灯り始めた色情が、瞳から消えていく。
「元カノからメールが来て……会いたいらしい」
うんうん、と頷いた彼女は右手で頬杖を付いた。
「で? 先輩はどうしたいんです?」
「俺は……」
友恵がどうして欲しいかを知りたい。
友恵に会うなと言って欲しい……。
「『トモがどう思うか知りたい』」
「え?」
「先輩、そんな顔してます」
クスッと笑う美佳の髪が優しく揺れた。
「私、とっくに気付いてます。わかってないのは本人だけ」
本人……?
「会ってみたらいいじゃないですか」
組んだ手を返して前に突き出し、美佳は伸び上がった。
「わからなかったことが、わかるかもしれません。保証はないけど……」
でも、と付け加えた彼女は、消えかけた艶やかさを取り戻した瞳を此方によこす。
「でも……その前に、私を満たしてください」
美佳の表情は、淫らな微笑で寂しさを紛らせていた。
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