契約彼女8‐6
「仁さん……」
友恵の微かな声が聞こえる。
「仁さんっ……仁さん、仁さんじんさんっ……」
お預けを食らっていたかのように、彼女は勢いよく胸元へ飛び込んでくる。
そんな友恵を、俺は力強く抱き締めていた。
「仁さんっ……仁さんっ……」
ぐりぐり顔を押し付けてくる友恵は、一頻り名前を呼んだ後、大きな瞳で俺を見上げる。
「好きですっ。大好きです、仁さんっ……」
そう言って、また顔を胸元に埋めた。
彼女との関係が始まったこの場所で、その関係が終わっていく。
そして、新たな関係がまた、ここから始まっていく。
それは契約という不思議な条件が消え去っただけの違いだが、俺たちにとっては大きな一歩を踏み出したに違いないだろう。
友恵の向こうに広がる景色が特別なものに見えるのは、きっとそのためだろう。
「ちょっ……そんなに押し付けたら化粧崩れんぞ?」
「崩れてるからこうしてるんですっ」
「え?! おまっ……はぁ~……」
呆れた息を吐きつつも、自然と笑みが溢れた。
そして俺は、慣れた手付きで煙草を取り出す。
いつものように、友恵の温もりを感じながら……。
契約彼女8 END
契約彼女 ー 完 ー
Written by YOU(=ZIN).
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