契約彼女8‐5
「ダメですっ!」
此方を向いた友恵は、大きな声を張り上げた。
「ホントは行って欲しくなかったっ」
勢いを押さえきれなくなったのか、友恵は想いを溢れさせていく。
「私のやりたかったことは、これから仁さんとやっていきたいことになってたんですよ?!
遊園地も映画もっ、旅行も結婚式もっ、全部っ、全部ぜんぶっ! ……私の中では、隣に仁さんがいるんですよ?
そんなことっ……言えないじゃないですか……」
畳み込むように言った友恵は、目尻から伝い落ちる大粒の想いを指で掬い上げる。
「だって……言ってしまったら、大人になるために頑張ってきた過程が無駄になっちゃう……。
仁さんと積み重ねてきた私のっ、私の大切な時間がっ、みんな無駄になっちゃうんですよ……?」
そんなに……そんなにお前は、俺のことを……
「昨日、笑顔で背中を押せたのに……あんなに辛くて痛くて、でも不思議なくらいニコニコして……強くなれてたのに……」
全て言い終わったのか、友恵は静かに鼻を鳴らし、漸く口を閉じた。
今言ってたよな? という突っ込みよりも、友恵の可愛らしさが、愛しさが、彼女へ想いが、俺に思いの丈を紡がせる。
「なら、俺はまだ弱いままだ」
彼女はハッとした様子で俺の顔を見る。
まるで、自分が大切にしてきたものを否定されたかのように。
何故なら、俺が強くなっていなければ、俺にとっての彼女との日々は全て無駄も同然だから。
でも大事なのはそんな建前じゃない。
俺たちは、契約内容に翻弄されているんだ。
「俺は友恵がいないと強くなれない。友恵がいないと、前を向けない。でも……それはいけないことなのか?」
誰だって誰かを求めてる。
誰だって、誰かに支えられている。
そうだろ?
「お前が言ったように、元カノはやり直そうって言った。でも、俺は断ってきた。それは……」
やっと言える。
やっと伝えられる。
友恵は今までのことに意味を見出だそうとしているけど、俺はお前とのこれからに意味を見出だしたい。
「それは、友恵が好きだから。もう……お前のことしか考えられないんだっ」
言えた。
こんなに清々しい気持ちになれるなんて、知らなかった。
全て吐き出せた今なら、友恵に何を言われても素直に受け止めることができるだろう。
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