契約彼女8‐3
俺はさっきからずっと友恵のことを考えている。
里奈を前にしていながら、友恵との違いばかり目に付いている。
俺のわからなかったこと……知りたかったことって……友恵が俺をどう思っているかじゃない。
俺がどうしたいかということだったんだ。
こんなにも友恵を想っていることを、知って欲しかったんだ。
この胸の苦しみは、昨日のあの辛さは、言いたいに言わないでいる自分との葛藤の証。
それが、里奈と会って漸くわかった。
こんなにも俺の中は友恵で埋め尽くされていたことに。
「だから……もう一度「ごめん」
里奈の言葉を待たずに俺は言った。
「もう、好きな子がいるんだ」
今すぐ会いたい子がいる。
想いを伝えたい子がいるんだ。
「そう……だよね」
里奈は顔を窓の方へ遣る。
忙しく行き交う車の流れを追うように。
空は茜が覆い尽くし、彼女の横顔を朱く染めていた。
「じゃあ……行くわ」
財布から五百円玉を取り出し、カップの横へ置く。
「わざわざ有り難う、仁」
漸く俺と目を合わせた里奈は、迷いを吹っ切ったように柔らかい笑顔を見せた。
「……頑張れよ」
里奈は俺なんか居なくても頑張っていける。
俺が保証する。
去り際に見た里奈の瞳には、茜がキラキラと輝いていた。
約束は夜7時。
その15分前に帰ってきた俺の視界に、下宿先の前に立つ友恵の姿が入った。
「中で待ってたら良かったのに」
バイクから降りてそう言った俺に、彼女は首を振って答える。
そして、合鍵をそっと差し出した。
「あのさ……友「返します」
笑顔で言う彼女には、何を言われても動じないオーラが滲み出ていた。
俺がそれを受け取ると、友恵はバイクに歩み寄り
「メット、貸してください」
と、やはり笑顔で催促する。
「あの、友恵「はやく」
その時、彼女は初めて泣きそうな顔になった。
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