契約彼女5‐2
日曜日は、昼間は暇なのに夜はてんてこ舞いになるほど忙しい。
オーダーが雪崩れ込んできて、少しの間があるとまた伝票が回されてくる。
それが落ち着く頃には、夜勤勢と交替の時間を迎えるのだ。
俺は本来夜勤なのだが、今日は昼間から入っていたため夕勤スタッフと共にあがる。
そのスタッフの中には、友恵と美佳も含まれていた。
夜勤には女性スタッフを入れないようにしているためである。
まぁ、美佳の場合は一日の出勤可能時間が限界であることも一因ではあるだろう。
「お疲れさまです」
下駄箱で普段靴に履き替えた俺は、挨拶を交わして外へ出た。
丁寧にも生温い風が出迎えてくれて、冷房で冷えた体を気味悪く撫で上げていく。
駐車場の辺りで後からついてくる友恵と合流し、彼女の自転車を押し出した。
元々帰る方向が同じなので、不自然には見えないはずだ。
「ミカっちーっ。お疲れ~」
少し離れた所にいた美佳に手を振り、彼女は手を振り返して友恵に返していた。
二人は同期で歳も同じな為か、端から見ていても一際仲が良い。
「今度、ミカっちと買い物に行くんですっ」
今からそわそわしている友恵は、軽い足取りで帰路を辿る。
「仁さん、どんな服が好みですか?」
「え? ん~……っつか、バイト中に何話してんだよ」
俺たちを追い越していく車のヘッドライトに、前から後ろへと影が流れていく。
道行く車両は若干少なくなっているものの、風を切っていく音は止むことはない。
しかし、その合間に僅かに響いてくる足音は俺の耳に届いていた。
友恵の履いているパンプスとは違い、何処か冷たさを感じさせる音だ。
何気なく後ろを窺ってみる。
誰かがいるのは分かったが、ヘッドライトが逆光になって上手く見えない。
ただ、道幅を取ってしまっている俺たちを邪魔そうにしてるわけではなさそうだし、距離も幾分か離れていた。
俺は前に向き直そうとしたとき、逆光になっていたヘッドライトがその人物の横を通過していった。
「…………」
思わず足が止まる。
それに合わせて友恵も歩みを止め、後ろを振り返った。
「ミカっち……?」
友恵の声が、俺の見間違えではないことを裏付ける。
俺たちとは反対方向に帰るはずの美佳が、確かにそこに佇んでいた。
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