契約彼女4‐3
「とても優しい人なんです」
美佳ちゃんは言う。
「たまに酔い潰れて、それがまた可愛いんですよね」
その場面を思い出したかのように、彼女は表情を綻ばせた。
「でも、自分の考えをしっかり持ってそうで……あぁ、大人だなぁって……」
これはなんだ?
ノロケか? ノロケなのか?
「しかも、すっごく頼りになるんです。私の知らないこと、色々教えてくれるんです」
「へ、へ~……」
何か良くわからないが、あまりいい気が起きないのは何故だろう。
俺は無意識のうちに2本目の煙草を取り出していた。
「バイトでも、部活でも」
真新しい煙草が指の隙間をすり抜けていく。
フィルターをくわえようと控え目に開けた口は、そのままの形で固まっていた。
俺の視線は下を向いたままなのに、此方を見る美佳ちゃんの様子を視界の端で拾ってしまう。
「先輩っ……」
美佳ちゃんの声は、小さいながらも俺を責める立てる。
「私、どうしたらいいですか……?」
どうしたら……、と小さく繰り返した彼女は、腕の間に顔を埋める。
正直、俺にはどうしたらいいのかわからない。
美佳ちゃんも、俺も……。
生暖かい潮風の名残が頬を撫で、妙な緊張感を助長した。
「寂しい時に傍にいてくれて、楽しいときには一緒に笑って……辛いときには支え合って……それが恋人だと、私は思います」
でも、と続ける彼女の顔は憂いを帯びている。
「でも、彼はどれもしてくれない」
「うん、まず遠距離を諦めよっか」
やっと出た台詞がこれだった。
「甘過ぎるよ、それは。遠距離だって、一緒に笑ったりできる」
ただ、機会が少ないだけで……。
「美佳ちゃんは、きっとまだ心が弱いんだ。好きな気持ちが弱いって意味じゃなくて、ん~……」
「……じゃあ」
何故か俺に擦り寄ってくる美佳ちゃん。
「先輩が私の強さになって……?」
甘い香りがふっと漂う。
パーソナルエリアに入って初めて香る美佳ちゃんの匂い。
それが鼻孔をくすぐった瞬間、俺は何故か彼女と口づけを交わしていた。
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