契約彼女3‐2
「フライパン?」
意外すぎるリクエストに俺は少し吹き出していた。
「そうです! フライパンですっ!」
友恵が言うには、今使っているフライパンが焦げ付いてきたので新しいものが欲しいとのことだ。
「安物はダメですね」
自嘲気味に笑った彼女は、オレンジジュースを吸い上げた。
「じゃあ、行くか」
俺もコーヒーを飲み干すと、タイミングを見て席を立った。
少し遅い昼飯を済ませたファーストフード店から外に出ると、ムワッとした熱気が肌に絡み付いてくる。
俺はフライパンが売ってそうな店をあれこれ考え、総合ショッピングセンターのような所があるのを思い出し、
「こっちかな」
とかぼやきながら彼女を誘導する。
「なんかイイですね。フライパンっ」
歩きながら不意に友恵が呟いた。
「新婚さんみたいで……」
少しの翳(かげ)りを見せた彼女は、俺の腕に腕を絡めてきた。
甘えるようなその行動に満更でもない心持ちで足を進めていく。
沢山の人混みに紛れながら、目的地を発見し、その群れから横へ逸れる。
エスカレーターを上り、4階に下り立った。
生活雑貨が並ぶ中に調理器具の売り場を見つける。
「んーっと……」
幾つかのフライパンを前にした友恵は頭を痛くしているようだ。
彼女には悩む猶予を与え、ざっと周辺の物を眺めてみる。
そういえば店長が、そろそろ新メニューが入ってくるとか何とか言ってたな。
どうせ季節先取りのマロンケーキだろう。
毎年のことだ。
あ、そしたら内装を変えるのもそろそろか……?
あれはホールスタッフメインでやるから、友恵も駆り出されるな。
「あのさ……?」
そう呼び掛けながら友恵の方にも視線を向ける。
フライパンを吟味してるかと思えば、彼女は全く違った方向に顔ごと視線を向かわせていた。
通路の先、向かい側のブロックの売り場。
フックにかかったペット用品……もっと具体的に言うと、幾つかの首輪がある。
それに気付いたとき、とても意地悪な感情がじわじわと滲み出てくるのがわかった。
「あれ、欲しいのか?」
少し大きめな声で訊くと、友恵は
「あっ、いえ、その、あの……」
等とあからさまに動揺した様子で
「こ、これにしよっかな、うん」
とフライパンを一つ手に取った。
※元投稿はこちら >>