●ダーリン1‐1
運命というのは、歯車が噛み合った途端急に動き出す。
こっちの都合なんてお構い無しに、ただ、決められた未来へ私を導いてく。
でも、最初の道標を用意したのは、他ならない私自身……。
気だるさの残る身体を起こして、今更ながら自身の過ちを悔いていた。
昨夜の出来事は夢じゃない。
何かが中に入っているような違和感が、あの悪夢は現実だと知らしめている。
開いたカーテンの向こうには新たな息吹が満ち溢れていた。
この季節の代名詞である桜の淡いピンクが、少し遠くに見える公園にも咲き乱れている。
そんな躍動の季節を迎え、私は4回生になった。
父は地方へ単身赴任、母は私の就職が早々に決まったのをいいことに、万を辞して父の後を追った。
そして、入れ替わるように理久がここへやってきた。
理久は母の妹の息子で、つまり従兄弟。
3つ離れた年下で、今年私と同じ大学に入学したために居候しに来たのだった。
今この家には、私と理久、そして5つ下の妹、夕月だけ。
度の過ぎる運命の悪戯に、私はまた涙を流していた。
そろそろ行かなきゃいけない。
ドアを開けようとノブを握ったとき、手首にうっすらと残る縄の後が目に入った。
今は自由なのに、私は命令に従って彼の部屋へ向かってる。
それが私の運命だから……。
追憶の彼方に置いてきたはずの青い期待と、それを上回る諦めが私をつき動かす。
理久は、夫を起こすのは妻の務めだと言う。
私は今から、ダーリンを起こさなければいけない。
静かに開いたドアの向こうに、暢気に寝息を立てている理久がいた。
こうやって見ると可愛いあの頃のままなのに……。
毛先を遊ばせた茶色の髪が寝癖で間抜けに跳ね乱れ、そっと閉じた目蓋の奥には昔の温もりが眠ってる。
でも目を覚ましたその瞬間には、切れ長の瞳に宿したもので私を責め立て来るのだろう。
昨日のように……。
「………………」
注意を払って除けた布団の下に、下着が現れる。
私は思わず視線を背けてしまった。
私の乙女を奪った凶器が、何故か下着を押し上げていたから。
ダーリン……。
「っ……」
悔しさに歯を食い縛っていた。
いっそのこと、このまま刺し殺してしまおう……。
そんな考えさえ沸き起こってくる。
でも、たぶん彼に罪はない。
彼を変えてしまったのは、きっと私なんだろう。
そう思うと、自分の軽率な行動に涙が溢れそうになっていた。
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