後輩は性奴隷……11‐4
どのくらいこうしているだろう。
喫煙場所のベンチに座って、傾いていく自分の影だけを視界に捕らえ始めてから、もう5限の始まる合図が鳴るところまで時は進んでいた。
そろそろ家に帰って、バイトの支度をしなければならない。
思考は影の動きと共に、ゆっくりとした早さで変わっていた。
始めは結衣のこと、次に朱音のこと、離婚のこと……そしてバイトのこと。
そう言えば、真里とどんな顔して仕事をするかなんてちっとも考えてなかったな。
どれもこれも他人事のようで、でも全部自分の事で……。
正直頭はとっくにショートしている。
しかしバイトは、俺がいかないと真里に迷惑がかかるし、それまでシフトしているオーナーと店長にも代わりを探してもらったりと手間をかけさせてしまう。
私情で仕事を休むわけにはいかない。
そう考えついた俺は、案外自分は分別がつけられているなぁと、また客観的な視点で自己評価を下していた。
でもそれは、客観的に考えることができていると評価されるべき点ではなく、むしろ現実逃避の入り口に立っているという批判を受ける方が正しい。
実際、この世界から逃げ出したい気持ちで一杯だ。
でもそれを選択するのは不可能だ。
そもそも選択肢に入れることすら、躊躇われることなのだ。
……亡くなった子に示しがつかない。
「おはよーございまーす」
誰の声だ?
あぁ……俺か。
今からバイトをこなすんだったな。
体に染み付いた作業を淡々とこなす。
まるで、手が勝手に動いているみたいだ。
「聞いてくださいよ~」
客が途絶えて、俺に話し掛けてくる真里。
何だかとても明るい。
無理をしているくらいに。
「で、それがすっごく不味かった……聞いてます?」
「聞いてるよ?」
全く聞いてません。
と言うよりは、頭に入ってこない。
これ以上情報を受け入れるだけの余裕が、今の俺にはない。
「もしかして……気にしてます?」
「……正直」
はぁ、と大袈裟に溜め息をついた真里。
「悠さんって、案外責任感じる人なんですね」
案外ってなんだよ。
「私は全っ然気にしてませんよ?」
「なんで?」
「なんでって……新たな自分を発見したんですよ?!逆に感謝です」
「……感謝?」
「そうです。心が泣いていることに、気付かせてもらえましたから」
だからもう気にしないで?と言いながら笑顔を浮かべる真里に、俺は少し救われた気がした。
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