「去年学校に入って、クラスのみんなとも馴染めなかった私に晶さんたちが話しかけてくれたの」
言っていることは普通の思い出話だが、言っている状況は少しも普通じゃない。
「それからとても親切にしてくれて、私と……」
だんだんと彩香の言葉が震えだす。それを、言いたくないことを言わされているのだから当然だと許すまり子じゃなかった。
「ほら、詰まってないでちゃんと言いなさい!」
そう言って、四つん這いになっている彩香の腹を思い切り蹴り上げる。体育会系のまり子はこういうところは容赦無い。
「ほら、早く!」
まり子は、自分が蹴り飛ばした彩香が涎をまき散らしてカーペットの上を転がるのを踏みつけて更に言葉を要求する。
「ご、ごめんなさい……晶さんやまり子さんが……私の……私の友達に……なってくれたの」
悔しいのか、彩香は涙を浮かべていた。それでも止まっていると何をするか分からないまり子に踏まれているのが怖いのか、晶が考えたセリフを言い続けた。
「それからしばらくして、夏休み前に、私に好きな人ができたの。運動部の人で竹中君って言うんだけど、とても素敵なスポーツマンなの」
これは彩香も思っていたことだろうからすんなりと言えていた。
「でも、私って引っ込み思案だから、告白とかうまくできそうになくて……晶さんたちの知り合いの……男の人に……練習させてもらって……」
もうまり子は踏むのをやめて、彩香も普通に座っていたが、彩香の目からはとめどなく涙が溢れ出していた。
「そうそう、友情の証よね~」
晶がわざとらしく彩香の肩を抱いてみせる。
「う、うん、ほんとに助かっちゃった」
彩香もまたわざとらしい演技をして晶に微笑み返す。肝心の杏奈は、私達のした協力がまともなものじゃないということくらい気付いているらしく、さっきと変わらない目で私達を睨みつけていた。
>ハルさん。ありがとうございます。ご期待に添えましたでしょうか。
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