結局、悟が帰宅したのは日曜日の夜中だった。
夏子はもう悟を信用できず、帰宅したのをわかっていたが出迎えもせず、ベッドに寝ていた。
翌日の昼間に志田が訪れた。やはり土日は泊まりで女性と会っていたらしいと志田に言われ、夏子はその場にへたり込んでしまった。
志田は優しく抱きかかえるように夏子を応接間のソファーに座らせ
「小田さんは、こんなに魅力的な夏子さんの何に不満なのかな」
と夏子の耳元で囁いた。
確かに90センチ以上はありそうなバスト、引き締まったウエストはモデル級だし、大きな瞳、ポッテリした唇はとても普通の人妻には見えない整い方だ。
「小田さんに嫉妬させてみましょうか?」
そう言う志田に夏子は詳しく内容を聞くと、夜に志田と飲みに行くと悟に伝え、こちらからは連絡をしないでみようと言う事だ。
「いくらなんでも、心配して連絡してくるでしょう」
志田の提案に夏子は戸惑ったが、
「これで小田さんも夏子さんを見てくれますよ」
と言う志田の言葉に後押しされ
「はい。お願いします。試してみたい」
と返事をした。
「では早い方がいい。今日にしましょう」
志田はそう言い、目の前で夏子に【今晩は志田さんに誘われて、お食事に行ってきます】と言う内容のメールを小田に送信させた。
「では夏子さん、小田さんが帰宅したら、見せつけるように出掛けてきてください。」
と言い
「化粧をちゃんとして、目一杯おしゃれしてきて下さいね。これから男とデートなんだ、っていう雰囲気で」
と付け足した。
「はい」
夏子は返事をした。
(へへへへ。夏子、あと少して俺の物だ。いままで溜めこんだものを、全部吐き出させてもらうぜ)
志田はニヤけながら呟いた。
夕方、夫の悟が帰宅したらすぐに夏子は家を出た。別に心配した感じでもなく
「行ってらっしゃい」
と言われたので夏子は思わず
「悟さん、心配じゃないの?」
と聞いてみた。悟は
「大丈夫。夏子の事を信用してるから」
と答えた。夏子は悟の思いがけない一言に戸惑っていると
「ほら、約束の時間に遅れてしまうよ」
と背中を押された。
指定されたホテルのロビーに19時頃に着くと、志田はもう待っていた。
夏子は志田の姿を見てハッとした。いつもジャージ姿しか見たことなかったが、今風のジャケットに包まれた上半身は逆三角形の筋肉質で、まっ黒に日焼けした肌は精悍さを増し、まるでモデルが立っているようだった。
「さぁ、こちらへ。レストランを予約してますよ」
結婚後に悟とあまり外食もしなかった夏子は、志田のエスコートにときめき、
(今日は志田さんとのお食事を楽しもう)
と思った。
あまり飲めないお酒も勧められるうちに量が増え、食事が終わった2時間後には、夏子はすっかり酔ってしまっていた。
「夏子さん、小田さんから電話が掛かってきませんね」
志田にそう言われ、夏子は今日の目的を思い出した。
「こちらから自宅に掛けてみたらいかがですか?」
と言う志田の提案に、夏子は自宅に電話をしてみた。
「はい、小田です」
夏子は一瞬訳が分からなくなったが、次の瞬間
「わぁぁぁーっ」
と泣き出した。志田が訳を聞くと電話口に女性が出たらしい。
「まさか、小田さん。自宅に女性を連れ込んでSMプレイしてるなんて」
志田はわざとらしく答えた。実は志田が仕込んで社長の佐々木と秘書が仕事の話しをしに小田の自宅にいただけで、電話に出たのは秘書だった。
例の悟のSMプレイの写真も、すべて社長の佐々木の手によって巧妙に作られた合成写真だったのだ。
悟の遅い帰宅はすべて社長の佐々木の指示によるもので、夏子は佐々木、蛭田、志田の策略にハマって、まんまとダマされたのだ。
「夏子さん、ここで泣いていても埒があきません。とりあえず場所を移動しましょう」
志田は夏子を抱きかかえるとエレベーターに乗り、階上の客室へと消えていった。
つづく
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